なぜ日本政府はFCEV(燃料電池車)開発などの水素事業のために15兆もの国民の税金を浪費するのだろう。その多額のお金を他のことに使うべきであるのに。
日本では先進国として環境負荷を低減させるべく水素事業に注目している。また、水素は化石燃料がほとんど採掘できない日本において、他国に頼らず、燃料を安定供給できるメリットもある。自動車メーカーのテレビCMなどでも水素は環境に良いと謳(うた)っている。これは中国のBEV(バッテリー電気自動車)優遇の潮流にのるために欧米メーカーが開発販売を激化させている中、その対抗馬として日本のメーカーが打ち出した戦略である。しかし、発電などに使える純粋な水素は自然界にはほとんど存在していない。よって、水素を利用するためにはメタンを水蒸気改質するか、水を電気分解して水素を精製するしかない。メタンは化石燃料の一種で、改質する際に二酸化炭素を排出する。また、電気分解とは電気の力を使って物質を分解することである。
今日の日本では発電量の8割が化石燃料で、残りの2割が再生可能エネルギーによって作られたものである。
この再生可能エネルギーを使って水素をつくればよいと思う人もいるだろう。実際に、日本政府と大手化学メーカーによって再生可能エネルギーによって水素をつくるプロジェクトが行われている。しかし、よく考えてみると、水素を使うことによって大きなメリットが望めないのであれば、輸送費や製造費などのコストなどを考え、BEVやPHEV(プラグインハイブリッド車)などにその再生可能エネルギーで作られた電気を直接充電してしまうほうが手間も少なく効率的なのではないかと思える。実際に自動車の熱効率で検証してみると、HEV(ハイブリッド車)、FCEVはBEVの約半分程度である。このことから、あまり高効率ではないFCEVの燃料である水素を精製するためにわざわざ少ない再生可能エネルギーを使う必要はないように思える。また、電気分解で水素をつくる際に非常に大きな電力を無駄にしていることも明らかだ。実際に電気分解時の効率は6割強ほどとなっている。ただ、BEVは充電時間や航続距離、バッテリーの原料などの問題があり、それらについては現在、FCEVの方が有利であろう。しかし、バッテリーについては、「燃料電池自動車」にも少なからず積んであり、鉱産資源の問題については良い解決策ではないようにみえる。さらに、FCEVが増えない理由がある。それは安全性と水素ステーションの少なさである。水素エンジンや燃料電池は出回っている数が非常に少なく、安全性などに疑問が残っている。さらに、水素には水素脆化(ぜいか)を起こし、金属を破壊する可能性もある。実際にノルウェーの水素ステーションでは爆発事故が起きており、負傷者も出ている。また全国のガソリンスタンドの数が約2万8000ヶ所であるのに対し、水素ステーションの数は約170ヶ所。参考として、EVの充電ポートの数は約2万9000ヶ所であり、充電時間がかかるといえども、水素ステーションの数と比べた場合、明確な数の差がある。
これらの結果から、使用方法によっては多少はクリーンであってもFCEVが全面的に環境に良いとは言えず、また、このような事業に15兆もの国民の税金を使用するのは非常に惜しいものである。さらに、現在、この国は少子高齢化対策や福祉の充実、防衛機能の向上など様々な問題がある。その中でも生活に困っている人への支援の充実が最優先ではないかと私は思う。この「水素基本戦略」という事業を見直し、増えた予算で、子ども食堂などへの支援や、学費免除の幅を広げる、給食無償化など、身近な重要なことに充ててほしい。そうすることで、この国がよりよくなり、明るい未来が望めるのではないかと思う。