作家の村上春樹さんは、かつてイスラエルの文学賞「エルサレム賞」を受賞した。「社会における個人の自由」を作品で表現し広めた作家に贈られていた。当時もイスラエル軍がガザ地区に大規模な空爆や地上侵攻を行っていたが、あえて授賞式に出席。そこでこんなスピーチをした。「もしここに硬い大きな壁があり、そこにぶつかって割れる卵があったとしたら、私は常に卵の側に立つ」―。「壁と卵」という比喩を用いて、市民への弾圧を批判。伝説のスピーチとなった。
15年前のスピーチを思い出したのは、国会でも急速に、さまざまな「壁」にスポットライトが当たっているからかもしれない。税や社会保険料の負担が生じる「年収の壁」を巡り、与野党が攻防を繰り広げている。衆院選で躍進した国民民主党は、学生アルバイトなどが直面する「年収の壁」である「103万円の壁」の引き上げを強く主張。20日には自民・公明の与党が歩み寄り、合意した。立憲民主党も企業の規模にかかわらず、社会保険料の負担が生じる「130万円の壁」の見直しを強く訴えている。
衆院選で大敗し、過半数割れした少数与党の石破政権。国会の景色は一変した。与野党伯仲の政治が新たに始まっている。各党の政策の競い合いが続く。 (広)