明日は淵瀬

明日は淵瀬

 「なかなか注目されることもなく、もう無理かなと思ったこともあったが諦めずに書いていてよかった」と語ったのは第172回直木賞に選ばれた伊与原新さん(52)=東京都在住=。元富山大学助教で、作家デビューから15年を経ての受賞をそう振り返った。

   受賞作「藍を継ぐ海」は田舎町の歴史や自然を題材とした短編集。このうちの一つ「星隕(お)つ駅逓(えきてい)」はオホーツク管内遠軽町が舞台で、特に引き付けられた。地球惑星科学の知見を生かした描写を交えて歴史を紡ぐということ、地方で生きることについて考えさせる。丁寧な取材の跡にも好感を持てた。

   普通のミステリー作家になりたくて小説を書き始めたが、科学研究を舞台にしたものが強みではと思うようになったと伊与原さん。「ひょんなことから書き始め、気が付けばこんなところまで来てしまったという不思議な気持ち」と笑う。

   先のことなんて分からない。最近テレビを見ていてつくづくそう思う。かつて「一発屋」「嫌われ芸人」とされたタレントがお笑い界屈指の人気者となる一方、不動の地位を築いたと思われた大物があっけなく転落していく。人間万事塞翁(さいおう)が馬。予測が難しいから人生は面白く、そして怖い。   (輝)