人生とはどういうものか。一つの示唆を与えてくれるイソップ物語に、今年のえと「巳(へび)」を題材としたものが少なくない。その一つ「ハチとヘビ」は、ハチがヘビの頭に立て続けに針を刺し、痛くて我慢のならないヘビが通りかかった馬車の車輪に頭から突っ込み、ハチと一緒にひかれて死んでしまう話。攻撃してくる憎い相手には、命をも投げ出して立ち向かう人がいることを伝えている。
米国大統領に返り咲いたドナルド・トランプ氏の就任演説を聞き、巧みな話術で周りを引き込む不思議な光をまとっていることに感心させられる。「(米国の)黄金時代が始まる」と切り出し、就任初日から数多くの大統領令や前政権からの政策転換を記す文書に次々署名するパフォーマンスを繰り広げた。気候変動対策の国際枠組み「パリ協定」からの離脱や世界保健機関(WHO)からの脱退、不法移民の排除など、大統領が掲げる「米国第一主義」を明確に打ち出した。
欧州にはノブレス・オブリージュという道徳観が浸透している。権力や財力を持つ特権階級層は、社会で果たすべき責任と義務があるという考え方。危うさが見え隠れするトランプ氏の政策が節穴だらけで、4年後に米国ハチと世界のヘビが共生できているか、不安が先立つ。(教)