二つのルーツ

二つのルーツ

 白老町の民族共生象徴空間(ウポポイ)でしばらくぶりに会った彼は生き生きと働いていた。旅行会社とタイアップしたガイド企業に就職し、ウポポイ見学のツアー客に施設や展示物を案内する活動を始めたという。彼の名は米沢諒さん(27)。白老で今年春までの3年間、公益財団法人の伝承者育成事業でアイヌ語や伝統技術を身に付け、ガイドの道に進んだ。「1人でも多くの人にアイヌの歴史と文化を伝えたい」との思いからだった。

   高校3年生の時、祖先は北海道の先住民族だと、父から打ち明けられた。親の仕事の関係でカンボジアで生まれ、東京で育った米沢さんはそれまで、自身がアイヌ民族の血を引いていることを知らずにいた。どんな人々なのか―。ルーツと向き合うため、民族教育の専門コースを持つ札幌大へ進学して懸命に学び、祖先の系譜に連なる者として意識するようになった。同化圧力が覆う社会で生き抜くため、言語や先祖伝来の風習、精神文化の継承を諦めざるを得なかった悲しい歴史も心に刻んだ。

   大学を終えて白老でさらに知識と技を深めた後、アイヌ文化を伝えるガイド業に就いたのは、さまざまな民族が共生し、異文化を尊重し合う社会づくりへの賛同を願ってのことだ。

   母親はソマリア人。北海道とアフリカの二つの民族の血が流れる身だからこそ、多文化共生社会の実現を訴える言葉には力強さがある。これからの活躍にエールを送りたい。(下)