直木賞

直木賞

 純文学から選ばれる芥川賞に対し、エンターテインメント小説に与えられる直木賞。今回はいつも以上にどの作品に決まるか注目している。江別市出身の千早茜さん(43)の長編「しろがねの葉」が候補に挙がっているからだ。最近知ったが千早さんとは中学と高校が一緒らしい。学生時代に触れるエッセーなどを読むと、漫画の一こまのように懐かし情景が目に浮かぶ。もっとも年齢はこちらの方が少々上だが。

   千早さんは人間関係や人生の機微の描写に定評があり、読後に「人間の業の肯定」とされる落語のような余韻を残す。しろがねの葉も時代を超えたヒトを描く。約400年前、島根の石見銀山で生きたウメの一代記。「天才山師・喜兵衛に拾われた少女ウメは銀山の知識と未知の鉱脈のありかを授けられ、女だてらに坑道で働き出す。しかし(中略)欲望と死の影渦巻く世界にひとり投げ出され…(後略)」(公式サイト)。初見の山言葉につまずいたり、地図を思い描けず行き戻りしたりしつつも濃密な情景描写に引き込まれ、夢中で読んだ。

   「ただ普通に生きている人たちの感情を拾う」とポリシーを語ってきた千早さんは3度目の同賞ノミネート。初めて挑んだ歴史時代小説はきっと受賞し代表作になる―と中学の同級生らと勝手に盛り上がっている。選考会は19日、東京・築地の料亭「新喜楽」で開かれる。ちなみに千早さんは食に関するエッセーも秀逸だ。(輝)