記憶の仕組みが分からない。最近、何度か、記憶の不思議を思い知らされている。幼い頃に聴いた、いわゆる歌謡曲の旋律や詩が夢の中に突然聴こえて、それが長い時には数日、耳から離れない。
娯楽と言えば、真空管ラジオの世代。親たちの選んだ落語や浪曲を聴いていた。最も多かったのは歌番組だろう。島倉千代子さんや三橋美智也さん、三波春夫さんらの曲が、郷愁も失恋もまったく分からなかった子どもの記憶に残り続けている。ビートルズやサイモンとガーファンクルの曲なら、いつ聴こえてもいいのだが、なぜ突然「心で好きと叫んでも 口では言えぬ ただあの人に」「知らぬ同士が 小皿たたいてチャンチキおけさ」なのか。大昔の詩や旋律が記憶の中で選ばれる仕組みが分からない。歌詞を円滑に思い出せないときには、何日も気になったりする。記憶を別のものに差し替える方法はないものか。悩まされる。
日本に新型コロナが上陸して3年。ロシアがウクライナへの侵攻を始めて間もなく1年。幼児虐待や殺人など、つらく重たい出来事が続く。安全保障や武器をめぐって、政治家や大人の戦争への反省や後悔の中身が変わった。そんな指摘が増えている。今の子どもたちの心にはどんな詩や旋律が積もっているのか。(水)