父ちゃん

父ちゃん

 40年以上も前の一本の電話のやりとりを覚えている。ラジオで北炭夕張新鉱のガス突出事故を知り、勤めていると聞いたことのある知人の安否を確かめるために取りあえず道内紙の夕張支局に電話をした。「お気の毒です」。返事は簡潔だった。1981年10月中旬のことだ。

   NHK総合テレビ「北海道道」の「父ちゃんのいた夕張 ピアニストの旅路」を、20日夜の本放送と22日朝の再放送の2度、見た。ピアニストは東京などで活動する夕張出身の大山泰輝さん(57)。父の武さんは、93人の犠牲者を出す大事故を起こした新鉱の取締役として事故の対応に当たった。テレビでは鉱員の残る坑内への注水を説明する社長の後ろに映っていた。事故原因や非情な消火、被害者家族の苦悩はいろんな角度から取り上げられてきた。「父ちゃん―」は「会社側の家族」の長い長い旅路の記録だ。

   武さんは、亡くなるまで家族には胸の内をほとんど語らなかったという。毎朝の焼香は奥さんが引き継いだ。泰輝さんは、父の残した日記を今も読み返す。

   夕張市には鉄格子でふさがれた新鉱の坑口が残され、近くに犠牲者の名を彫った慰霊碑がある。泰輝さんは昨年、初めて訪ね、手を合わせた。「父ちゃんの人生とは何だったのか」考えながら。(水)