日高山脈に生きる希少動物として知られるのはエゾナキウサギ。数万年前の氷河期の生き残りといわれる。甲高い声で「ピチッ」「ピーッ」と鳴く。初めて見たのは、山脈の主峰・幌尻岳(2052メートル)のピークから延びる稜線(りょうせん)を北へ進み、氷河が削った急斜面の踏み跡を降りた所に広がる七ツ沼カール(圏谷)だった。積み重なった大小の岩の上から丸い目と耳をしきりに動かし、カメラを構えるこちらを神経質そうに観察していた。もう40年も前のことだ。
「日高山脈襟裳十勝国立公園」の指定が22日、環境省の諮問機関・中央環境審議会自然環境部会で決まった。日高、十勝の各町は自然環境の保全や観光振興に期待を寄せる。鈴木直道道知事も会見で「地元の長年の悲願。地域活性化の起爆剤になる」と大きな期待を表明した。
26日の道新は「ナキウサギ どこへ」「気温上昇 せばまる生息域」と調子が大きく違った。各地でエゾナキウサギの生息数が減っているのだという。十勝岳(2077メートル)や、大雪山系の黒岳(1984メートル)で聞いた「ピチッ」という鳴き声に安心していたが、地球温暖化による気温上昇が、暑がりの彼らの命を、脅かしているそうだ。国立公園。背負った荷の大きさと重さを、改めて思う。(水)