本展の「第4章」では、作者の心の奥深くから浮かび上がるかのような夢や幻想の入り交じる作品群を紹介しています。
苫小牧ゆかりの画家・町田徹哉は、点描による細密な描写と繊細な色彩感覚により幻想的なメルヘンの世界を築き上げました。夢やおとぎ話に出てくるようなその魅惑的な楽園は、20世紀初頭にかけて活躍したフランス素朴派の画家アンリ・ルソーの作品をほうふつとさせます。ピアノの演奏にもたけていたという町田ですが、その繊細な感性に基づく詩情が画面全体に漂っており、見る者の想像力を喚起します。町田の作品には、太陽や月をはじめ、きらめく星々、そして小鳥やチョウ、花といった動植物が登場します。こうした題材は、「いのちと自然の造形譚(ものがたり)」と称する本展のイメージにも合致することから、花々が咲き乱れる庭園を描いた《夏の朝》をメインビジュアルとして採用しています。
当館では町田の作品を12点所蔵していますが、これまで紹介の機会に恵まれなかったこともあり、本展では全作品を展示しています。その展示方法としては、川岸や街並みなどが多く登場する作品世界に着想を得て、あえて固定ケース内と可動壁の内外に作品を配置しています。川岸を介した遠くの街並みや情景を眺めるような感覚で、一連の作品世界をご堪能いただければ幸いです。
このほか、国松登の北方の幻想性が漂う油彩画や、遠藤ミマンの「鳥と妖精」のシリーズ、そして、宮沢賢治の『銀河鉄道の夜』に着想を得た佐藤国男の版画なども紹介しています。この機会に各作品の持つ魅力に触れてみてください。
(苫小牧市美術博物館学芸員 細矢久人)