• 「ブレイクショットの軌跡」/逢坂冬馬著/現代社会に道を見失う人々
    「ブレイクショットの軌跡」/逢坂冬馬著/現代社会に道を見失う人々

       逢坂冬馬の第三長編は、静岡の自動車工場で働く期間工の青年のつぶやきから始まる。 2年11カ月続いた勤務の最終日、青年は製造ラインを流れるブレイクショットというスポーツ用多目的車(SUV)の車体内部に、1本のボルトが落下するのを目撃する。本来ならすぐにラインを止めなければならないのだが、ミスをした

    • 2025年4月29日
  • 歴史切り取るルポルタージュ/「原爆と俳句」を書いた/永田浩三さん
    歴史切り取るルポルタージュ/「原爆と俳句」を書いた/永田浩三さん

       「俳句は17音の緊張で、見事に瞬間を捉えることができる。その短さ故に心に留めやすく、共有もしやすい」と語る永田浩三さん=東京都練馬区 広島を中心に戦争と被爆の実相を長く見詰めてきたジャーナリストの永田浩三さんが、戦後80年を見据えて著書「原爆と俳句」を出した。「よく切れる刀で切ったかのように、歴史の

    • 2025年4月29日
  • 「歴史のなかの貨幣」/黒田明伸著
    「歴史のなかの貨幣」/黒田明伸著

       中世の東アジアで、海を越えて流通した銅銭。日本では12世紀まで米や絹が取引に使われていたが、釣り鐘や仏像鋳造の素材として大量に輸入された中国銅銭が通貨として広まった。15世紀には銅生産の活発化で中国銭の模造古銭が造られ、流通を支えた。国家権力から離れ、生き物のように東アジアに広がった銅銭に驚きを覚

    • 2025年4月29日
  • 民報俳壇 苫小牧ホトトギス会
    民報俳壇 苫小牧ホトトギス会

       帰る雁目で追うてをり虚子忌かな桂 せい久優しさを頂く余生春めけり長谷川淑子羽搏きは新たな風を呼ぶ帰雁千   香送別会日本史談義饒舌に森  美子暖かや玻璃を抜け来る日差しあり坂田 敦子雨音が誘う春眠覚めやらず髙橋紀美子生き抜いて元気で見たり桜かな ■(吉の士が土) 度 厚彦札幌の友の

    • 2025年4月29日
  • 「テクノ封建制」/ヤニス・バルファキス著     関美和訳/資本主義に反するモデル
    「テクノ封建制」/ヤニス・バルファキス著     関美和訳/資本主義に反するモデル

       ギリシャ財務相も務めた経済学者による本書は、グーグルやアマゾン、アップルなどの巨大テクノロジー企業が資本主義を根本から変化させていることに強い警鐘を鳴らしている。 現代のテクノロジー産業の特徴は「プラットフォーム」にある。音楽や映画、アプリなどを配信できる場を用意し、手数料を取るというビジネスモ

    • 2025年4月29日
  • 「『死後生』を生きる」/柳田邦男著/残された人の道しるべに
    「『死後生』を生きる」/柳田邦男著/残された人の道しるべに

       戦争や災害、事故、医療などを題材に長年取材を続け、日本のノンフィクション確立に寄与した著者。昨年米寿を迎えたが、執筆活動はとどまるところを知らない。何がそうさせるのか―。過去の記事と書き下ろしを併せた本書が「いのち」をキーワードに教えてくれる。 平仮名表記の「いのち」に、著者は生物学的な「生命」

    • 2025年4月29日
  • 「こども遊び大全」/遠藤ケイ著
    「こども遊び大全」/遠藤ケイ著

       昭和20~30年代に少年時代を過ごした作家・イラストレーターが、当時の子どもたちの定番の遊び計56種類を詳細な挿絵で紹介する。男の子編はベーゴマやクギ遊び、ちゃんばらごっこなど、女の子編はお手玉やあや取り、ままごとなど。写実的ながら温かみのあるイラスト、丁寧な手書き文字が郷愁を誘う。(ヤマケイ文

    • 2025年4月29日
  • 民報歌壇 新墾/ヌプリ短歌会/木曜短歌会
    民報歌壇 新墾/ヌプリ短歌会/木曜短歌会

       有珠川を終の棲みかと定めしか二羽寄り添ひて白鳥のゆく藤島 貞子シリウスは「焼き焦がす」とふギリシャ語なり亡き人の魂(たま)燃ゆる凍て星須藤 和代五番線のバス停に若き日よみがえる今はジョニィを待つこともなく渡邊 富子半分が空き地となりたるブロックも 人口減に転じて十年本波 裕樹安平川の草辺に君

    • 2025年4月29日
  • 「問題。以下の文章を読んで、  /  家族の幸せの形を答えなさい」/早見和真著/両親巡る少女の葛藤
    「問題。以下の文章を読んで、  /  家族の幸せの形を答えなさい」/早見和真著/両親巡る少女の葛藤

       「それで? あんたはここんところ何にイラついてるわけ? 何が不満? 自分の言葉で言ってみ」 本作の主人公長谷川十和は小学3年生が終わる頃、母に聞かれた。優しすぎる父が苦手で、家族4人でのキャンプを当日になって行きたくないと駄々をこねたからだ。黙っている娘に、勝ち気な母は告げる。 「あんた、四月

    • 2025年4月22日
  • 「平等とは何か」/田中将人著
    「平等とは何か」/田中将人著

       昨今、「親ガチャ」「社会の分断」などの言葉で論じられる不平等や格差。不平等の何が悪いのか、果たして平等とは何かを、政治哲学的な切り口で明らかにする。キーワードは、誰からも支配、抑圧されない「自尊」「不偏」。満たされない者には、事後に再分配さえすればよいとの考えを戒め、現行の生活保護の在り方にも物申

    • 2025年4月22日
  • 弁護士が描くどんでん返し/「午前零時の評議室」を書いた/衣刀信吾さん
    弁護士が描くどんでん返し/「午前零時の評議室」を書いた/衣刀信吾さん

       「創造的な仕事は大変だが、ひらめくとうれしいし、面白い」と語る衣刀信吾さん=東京都文京区 「午前零時の評議室」で第28回日本ミステリー文学大賞新人賞に選ばれた衣刀信吾さん。現役弁護士の手による本格リーガルミステリーが高く評価され、満場一致での受賞となった。 法律事務所でアルバイトとして働く大学3年

    • 2025年4月22日
  • 「東京大空襲を指揮した男  /  カーティス・ルメイ」/上岡伸雄著/人間の本質を問う評伝
    「東京大空襲を指揮した男  /  カーティス・ルメイ」/上岡伸雄著/人間の本質を問う評伝

       第2次世界大戦下、東京大空襲を指揮し、10万人を殺りくした人物がいる。名前はカーティス・ルメイ、米陸軍航空軍の将軍である。焼夷(しょうい)弾を用い、軍事施設を狙うのではなく、民間人をも巻き込んだ無差別爆撃を決行した一方で、戦後の航空自衛隊育成への貢献で勲一等を授与されもしたこの男は何者なのか。米国

    • 2025年4月22日
  • 「河内と船場」/山本昭宏編著/大阪像の変遷、丹念に
    「河内と船場」/山本昭宏編著/大阪像の変遷、丹念に

       JRの大阪・関西万博ガイドブックの表紙には「オモロイがいっぱい」の文字が踊る。おもろいまちという自己規定はいつ頃始まったのか。メディア文化にみる大阪イメージの変遷をたどったのが本書である。 「河内と船場」という題がユニークだ。河内地方は元来、大阪ではなかった。大阪(大坂)は摂津の国に属し、かつて

    • 2025年4月22日
  • 「がらんどう」/大谷朝子著
    「がらんどう」/大谷朝子著

       経理を長年担い、職場で「先生」と呼ばれる平井は、「骨に染み入るような寂しさ」を抱えた菅沼に誘われてアラフォー女性2人の共同生活を始める。奇妙な副業と婚活アプリ、就職氷河期世代の不遇、「推し」アイドルの電撃婚…。結婚や出産といった人生の選択にいや応なく揺れる、独身女性の心の機微を丁寧な筆致ですくい取

    • 2025年4月22日
  • 民報俳壇 葦牙俳句会
    民報俳壇 葦牙俳句会

       喜寿の子と白寿の母の弥生かな彰 子AIは新しき友風光る典 子よく響くけさの嘶き冴返る幸 代弧を描く水平線や春の虹光 江春の夕つくづく家に帰りたしたつ子うららかや校舎に響く高き声和 美日高路や潮目に乗りし春の波敏 子春落葉雨が似合ひの石畳数 方浮んでは消ゆる思ひ出春の雪由紀子

    • 2025年4月22日
  • 民報川柳 苫小牧川柳社
    民報川柳 苫小牧川柳社

       丸くなりナニ夢見てる家の猫高野ついこ突然にあなたの言葉我れ忘れ箱崎 倫子国トップ言いたい放題恥ずかしい中津 遊水過ぎた日も生きた歴史と愛おしむ坂本 富子子7人亡父母に感謝仲がいい西内 一幸傑作に出会う喜び旨いお茶福田 正響失敗も恥も恐れず挑戦す前橋せつ子今月も灯油満タンきついなあ酒井

    • 2025年4月22日
  • 「謎ときエドガー・/アラン・ポー」/竹内康浩著/知的興奮を引き出す着眼点
    「謎ときエドガー・/アラン・ポー」/竹内康浩著/知的興奮を引き出す着眼点

       19世紀のアメリカの文豪エドガー・アラン・ポーは世界最初の推理小説とされる「モルグ街の殺人」をはじめ数編の推理小説を発表したが、その一つに「犯人はお前だ」という短編がある。 田舎の町で富豪が失踪。捜索の過程でそれが殺人事件と判明し、被害者の甥(おい)に嫌疑がかかるが、実は犯人は他にいたというスト

    • 2025年4月15日
  • 「左川ちか 青空に/指跡をつけて」/川崎賢子著/モダニズムと現代詩つなぐ人
    「左川ちか 青空に/指跡をつけて」/川崎賢子著/モダニズムと現代詩つなぐ人

       1911年北海道に生まれ、36年に若くして世を去った左川ちかは、アイルランドの作家ジェイムズ・ジョイスの翻訳や詩の創作を精力的に発表し、日本のモダニズムに特異な作風を刻んだ詩人だ。兄の友人だった伊藤整と早くから相知り、上京してからは百田宗治や北園克衛、春山行夫らと交友を深めた。 近年、いっそう人

    • 2025年4月15日
  • 気持ちのトーンに合った本を/心身を改善させる「読書療法」
    気持ちのトーンに合った本を/心身を改善させる「読書療法」

       好きな文章を書き写すことも心の回復につながる 本を読んで心を落ち着かせ、心身を健やかに保つ「読書療法」。好きな本を自身のペースで読むことで、ストレス軽減や癒やしになると、日常に取り入れる人が増えている。 「米国や英国など一部の先進国で導入され、英国では医師が精神的な悩みを抱える患者に本を紹介する政

    • 2025年4月15日
  • 「新しい星」/彩瀬まる著
    「新しい星」/彩瀬まる著

       かつて同じ大学の合気道部に所属していた男女4人は、卒業から約10年を経て再会し、交流を持つ。生まれて間もない娘の死、乳がんの発症など、簡単には説明できない事情をそれぞれに抱える。思いがけない孤独や苦しみに直面し、なおも続く人生。そこに寄り添い、共に歩んでくれる友人がいることの心強さが伝わる連作短編

    • 2025年4月15日
  • 「大人をお休みする日」/文月悠光著/歳月と人のめぐりあい
    「大人をお休みする日」/文月悠光著/歳月と人のめぐりあい

       「大人をお休みする日」とはとても魅力的な響きだ。深呼吸をして肩の力を抜こう。「恋と暮らしに寄り添う」と帯にある。歳月と人とのさまざまなめぐりあい、一つ一つへの愛(いと)しさが手渡された感じをまず受けた。 「風は私の髪を撫(な)でていくが、/心まで撫でているとは知らないだろう」。目に見えない何かを

    • 2025年4月15日
  • 「AIに書けない文章を書く」/前田安正著
    「AIに書けない文章を書く」/前田安正著

       AIが「ものを書く」時代。著者は、思考や感情がないAIには「文章を書くことができない」と言う。AIが書くのはネット上にある情報のまとめやデータを読み込んだ「文書」。人間にしか書けない「文章」の構造や技術を解き明かしながら、自分という存在がにじむ「文章」を書く意義を見詰め直す。(ちくまプリマー新書

    • 2025年4月15日
  • 民報歌壇 樹の会/銀河短歌会/新墾
    民報歌壇 樹の会/銀河短歌会/新墾

       残雪のつつじの根方に福寿草耐へし命の黄色極だち桐渓 淑子病窓にくも一匹はい出でて啓蟄前に吾を見舞うか岡田 京子啓蟄の意味を教えてくれた父奇しくもその日は命日となり神成 靖子「美味しいよ」いとこ鎌持ち切りくれるハウスに色濃きほうれん草を伊藤 妙子店先で山積みされる教科書に「おめでとう」の幕揺ら

    • 2025年4月15日
  • 民報俳壇 苫小牧ホトトギス会/アカシヤ俳句会
    民報俳壇 苫小牧ホトトギス会/アカシヤ俳句会

       トラクター駆けて広野の土匂ふ岡澤 草司飯炊きと自嘲の妻や万愚節竹内 直治ここへ来て折り返し点猫柳平尾 芙美昼ひとり雪解しづくの調べかな名取 光恵逃水の中を二匹の猫走る中村千恵子湯の宿の窓をかすむる冬鴎竹内美枝子逃水や記憶のかけら愛ほしみ鹿糠寿恵女逃水の狸小路を出でしより髙木 則

    • 2025年4月15日
  • 「日本語からの祝福、  /  日本語への祝福」/李琴峰著/言葉へのいちずな思い
    「日本語からの祝福、  /  日本語への祝福」/李琴峰著/言葉へのいちずな思い

       著者にとって第二言語である日本語で最初に書いた小説が新人文学賞の最終候補となった。その知らせを受けたのが2017年2月14日夕刻、社員食堂の片隅。予想もしなかったこの「バレンタインデーの奇跡」の描写から一気に引き込まれる。彼女は、4年後に芥川賞を受賞するのだ。 本書は、台湾の地方の農村に生まれた

    • 2025年4月8日
  • 「ヒトとヒグマ」/増田隆一著
    「ヒトとヒグマ」/増田隆一著

       北海道を含む北半球の亜寒帯に広く分布するヒグマ。その生態や生息域の拡大をたどりながら、ヒトとのつながりを考察する。アイヌ文化の「イオマンテ」などクマ送りの儀礼は地域を超えて共通するという。「現生人類との出会いは、偶然的かつ運命的なものであった」と著者。怖いだけではないヒグマと人間との関係性の深層に

    • 2025年4月8日
  • 著者に聞く 言葉は魂の乗り物/「俺の文章修行」を書いた町田康さん
    著者に聞く 言葉は魂の乗り物/「俺の文章修行」を書いた町田康さん

       「文章を書くと人は格好つけてしまう。そうした格好つけを外して、残るのは何やねんと考えると、実はゴミカスみたいなもの」―。町田康さんが読み書きの技法を伝授する「俺の文章修行」。大阪弁が入り交じる独特の文体で、文章が生まれ出る際に起きていることを丹念に解きほぐした。 「女にもてたい」「もっと俺をフィ

    • 2025年4月8日
  • 「WAR3つの戦争」/ボブ・ウッドワード著    伏見威蕃著/情報を基礎にした外交
    「WAR3つの戦争」/ボブ・ウッドワード著    伏見威蕃著/情報を基礎にした外交

       昨秋に本書の原著が米国で発売される直前、一部の内容が報道された。トランプ米大統領が2度目の選挙で落選し、ホワイトハウスを去った2021年1月以降、ロシアのプーチン大統領と約7回電話で話をしたというのだ。両大統領の親密な関係が続いてきたようだ。 本書を手に取り初めて、バイデン前米大統領が関わった三

    • 2025年4月8日
  • 「ひのえうま」/吉川徹著
    「ひのえうま」/吉川徹著

       その年に生まれた女性は災厄に見舞われるとされる「ひのえうま」。江戸時代初期に端を発する迷信ながら、それから6回り目の昭和41(1966)年の出生数が一番減少した理由は? 当時の言説や家族計画の在り方を基に、種々の統計を駆使して解き明かす。来年巡り来るひのえうま。迷信はなお人々を惑わすのか。(光文

    • 2025年4月8日
  • 民報俳壇 苫小牧ホトトギス会
    民報俳壇 苫小牧ホトトギス会

       雪解けて雪の魂流れ去る桂 せい久どちらともなく誘ひあい桃の酒長谷川淑子掃くだけで済ますこの頃春の雪千   香人生を重ねるごとく編む毛糸森  美子春の雪跡形も無き午後の庭坂田 敦子立子忌や玉藻の心今に継ぐ ■(吉の士が土) 度 厚彦生かされて苦も楽もあり雛飾る髙橋紀美子大試験ページめ

    • 2025年4月8日