「サイレント・フォールアウト」/伊東英朗著/声を上げ連帯する大切さ
- 2025年6月10日
著者は、ビキニ環礁での水爆実験の知られざる被害を追ったドキュメンタリー映画を発表し、話題を呼んだ。今回は米国を舞台に本書と同じ名前の映画を製作し、全米で上映会を開き対話を続けている。 1950年代、米国内だけでも100回を超える大気圏での核実験が行われ、風下の住民が被害を受けた。こんな証言がある
著者は、ビキニ環礁での水爆実験の知られざる被害を追ったドキュメンタリー映画を発表し、話題を呼んだ。今回は米国を舞台に本書と同じ名前の映画を製作し、全米で上映会を開き対話を続けている。 1950年代、米国内だけでも100回を超える大気圏での核実験が行われ、風下の住民が被害を受けた。こんな証言がある
あの「塚崎多聞」が帰ってきた。それも、なんと前作「不連続の世界」から17年ぶりに! 作者である恩田陸は、「自分が創造した作中人物のうち、いちばん気に入っている人物は?」と聞かれると「登場人物に肩入れするタイプではない」と留保を付けつつ、「典型的な巻き込まれ型」である多聞の名を仕方なしに挙げていた
約50万語を収める最大の国語辞典「日本国語大辞典(日国、にっこく)」の第3版刊行に向けた改訂が始まった。編集に当たる有識者が数百人に上る巨大プロジェクトで、版元の小学館は2032年にデジタル版の公開を目指す。 25万~30万語収録の「広辞苑」(岩波書店)や「大辞林」(三省堂)は「中型」国語辞典に
珠玉の言葉を紡ぐ歌人が「生きた」日本語を考える。短歌を詠むAIが登場し、SNSには過激な言葉が放流され…。まさに現代は日本語の真価が問われている。円滑なコミュニケーションには「書き言葉の足腰を鍛える」必要があると著者。曖昧表現を好む若者に戸惑い、「くそリプ」にも賢明に返そうとする姿におかしみがある
紀元前1世紀の「史記」から「明史」まで、中国2000年の歴史を記録した24の正史を紹介する。体制側に立ちながら権力批判も書き込んだ史記、それを批判的に引き継いだ「漢書」。当初は個人的な著述だったが、王朝交代が繰り返される中、政権が自らの正統化のため、前王朝の「正史」を編さんする国家的事業になってい
さくさくと菜きざむときに過ぎし日の賑はふ食卓眼裏うかぶ桐渓 淑子明け方に肩たたかれて目が覚める 気配はきっと亡夫だと思う神成 靖子冬囲い外せばそこに活き活きと亡姉の見立てしクリスマスローズ伊藤 妙子カーテンに樹の影写り今宵また目を奪われて影絵のごとし岡田 京子池の面へ百もの丸を作りゐて雨に
参道の日暮れ静かや余花こぼる幸 代母の日や小さき背を励まして彰 子胡瓜蒔く子なきわたしの育児かな典 子走り根の先盛り上がる春の雨敏 子指に巻く輪より始まるレース編み数 方風薫る牛馬と出会ふ遠出かな光 江雨上がり水玉光る若葉かなたつ子時の日や昭和の匂ふ小さき文字和 美煌くる命五月の
「夫婦グセ」という言葉を聞いて、本書の主人公、美土里はハッとする。長年連れ添った夫を亡くしたばかり。夫恋しい、肌恋しいと泣き暮らしていた自分を「夫婦グセの重症」だと自覚する。 そんな美土里が未亡人仲間を得て、夫婦の不思議を思い、生と死についての考察を繰り広げる約1年半の物語である。 未亡人俱楽
凄惨(せいさん)な沖縄戦の戦場を逃げ惑い、辛うじて生き延びた住民の女性たちの証言を伝えるルポルタージュ。記録作家が終戦から30年余りたって聞き取った体験談は鮮明だ。飢えに苦しみ、撃たれ、友軍にもおびえた逃避行の情景と、占領下に横行した性暴力の実相が浮かび、トラウマの深刻さにも胸を締め付けられる。
「読んだ人の中に何かが残る作品を書きたい」と話す阿部智里さん=東京都新宿区 緻密に構築したファンタジー世界と多様なキャラクターが人気の作家、阿部智里さんが最新作「皇后の碧(みどり)」を刊行した。「今を生きる中でこんなことがあるよね、でもこの主張ってこんな見方もできるよね、という『視点』への問いを盛り
元アイドルの菜里子の下で働くことになった環。かつての憧れの人を前に胸を高鳴らせるが、人付き合いが苦手な菜里子と打ち解けられずにいた。それでも、仕事を通じて次第に心を通わせていく。複雑な家庭環境で育った女性二人が励まし合い、両親や恋人、友人との関係性を見詰め直す、希望に満ちた物語だ。(創元文芸文庫
いま目に見えているものが善なのか悪なのか。難しい判断です。しかし人に対する印象にしろ事件の捜査にしろ、見えているものだけで決めつけない。そのことの大切さが本書の底流にはくっきり流れています。 愛知県岡崎市、地蔵池と呼ばれる溜(ため)池で見つかった一体の遺体。身元の名前は土屋鮎子といい、76歳で熟
室町時代から続く京都の老舗和菓子店の十五代目当主が残した名著が35年ぶりに復刊。柔らかい語り口でつづる菓子作りと京都への思いは色あせるどころか、ますます重みを増して読者に迫る。「御粽司(おんちまきし)」として宮中に献上してきた粽作りの場面は圧巻。効率とは相いれない手仕事を通じ、伝統とは何かを教えて
「スマホ脳」などベストセラーを連発した著者の最新刊。多動、衝動性、注意困難が特徴のADHDについて、遺伝性の脳の特質であり、決して疾患や障害ではないと強調。その特質は、ヒトが狩りで暮らしていた太古の昔には大きな利点であったことを踏まえ、それを強みにして生きる数々の処方箋を提示する。温かいまなざしが
生まれたばかりのわが子が、いつか言葉を覚え、数を数えたり計算したりするようになる。2児の父親で、数学を修めた著者も、その日を楽しみにしていた。しかし、規則通りに計算するだけの機械より、新たな概念が芽生える瞬間に立ち会える物語の方が数学の本質に近いと考える著者は、子供たちのたわいない言動の中に、数を
かはいいと蒲公英増やす夫の畑小松冨佐子水盤に敷きたる青い蜻蛉玉坂口 悦子散る桜路肩の水の華やげり山角 瑞希幾人の故人の笑顔黄たんぽぽ舘崎やよゐ虎杖の丈なす速さ川の縁高木美代子一枚の絵画の力夏兆す砂田きぬ代ぽつぽつと陽の欠片めく黄たんぽぽ墨谷 真澄杖をつき夏を探して句を探し入谷 露潤
蕾かたき桜の小枝購いぬ窓の日向(ひなた)は早々と春桐渓 淑子終活に備えて先ずは手紙類一通ごとに声まで聞こゆ神成 靖子裏山の冬枯れの木々に朝日映え赤味をましてしばし眺むる岡田 京子わたくを誘うはバラの棘のみと笑いて弾む初ガーデニング伊藤 妙子
著者はポーランドのジャーナリスト。前作「独裁者の料理人」で、イラクのフセインやキューバのカストロといった独裁者に仕えたシェフらを取材し、グルマン世界料理本賞を受賞している。 本書では、旧ソ連やロシアをめぐり、さまざまな時代の食の現場に立ち会った人たちから話を聞き出した。まさに厨房(ちゅうぼう)か
寄贈者のメッセージや読んだ人の感想がつづられている「みんなの感想カード」=東京都西東京市の「まちライブラリー@MUFG PARK」緑に囲まれた「まちライブラリー@MUFG PARK」。軒下にはテラス席も=東京都西東京市 「まちライブラリー」という言葉がある。カフェやオフィス、病院、個人宅の玄関先など
北海道の酪農家に生まれた直木賞作家が、自身のルーツをたどる。旧満州から引き揚げ、大阪から北海道に移住を決めた祖父と、独立して自分の牧場を開いた父。酪農家の日常も紹介しながら、脳卒中で倒れた父への思いと介護、酪農を取り巻く厳しい状況から暴れ牛との戦い方まで、軽やかで温かい筆致で描く。(集英社新書・
非正規雇用で不安な日々を送る人が増加。働き方改革が取り入れられても名ばかりで、労働時間が減った分の収入を副業で補うという現実もある。年金だけでは暮らしていけない高齢者も少なくない。政府が教育を通して効率的で生産性の高い「経済成長に役立つ能力」を持つ人間を育てるための競争をさせている―。 根源にあ
「青ひげ」は説話であり、本の世界に現れたのはフランスの詩人シャルル・ペローが1695年に刊行した手書きの説話集が初めてである。7番目の妻を館に迎え入れた青ひげは、ある部屋にだけは入ってはならないと妻に命ずる。しかし、彼女は好奇心に負けてその部屋の前に立つ。ドアを開けた彼女が見たものは…といった筋立
不穏で甘美かつ官能的な恋愛を描いた短編集。快楽に生き、エゴイズムを通す主人公たちに、悪夢のようなラストが待ち受ける。意中の女子からもらった手紙を紛失した男子高校生に起こる悲劇を描いた「ブルー・インク」、死に際の老女が衰える身体を慰めながら夫以外の男性と情欲に燃えた日々を回顧する「花瓶」など6編。
「ストーリーテラー(の能力)は生まれつきのものさ。でも技巧やトリックなら教えられるよ」。映画やドラマ制作の経験も豊富なノーベル賞作家が、脚本家らとの討論で、小説に限らない「物語ること」の極意を伝える。「本当らしい話には少しのうそが必要」など、日常の言語表現に役立つヒントにも出合える。(岩波現代文
今日はやけに体が重い家の中杖をつきつきやっと二千歩泉 玄冬満開の幾多の桜みて掃除花びら少し墓石に残りメグ 宗満札幌駅周辺部分変わり果てタクシー乗り場にたどりつけない梅津ひろこ庭隅に蒲公英みっけとメールあり東京に新居かまえし子より梅津 譲一ほらごらん怯ゆをさなと今宵みる窓のむかうの五月の雷雨
ポスト人間としての超知能AIと、AIを駆使して強化されるわれわれ人間の究極の脳。意識とは何か。意識は人為的に生み出せるのか。AIが意識を持ち得た時、倫理的に起こり得る問題は―。地球上で最高の知的生命体の地位をAIが取って代わる可能性について、哲学者が持論を展開する。筆致は近未来SFのよう。(ニュ
「高宮麻綾のモデルは3人いる。夢中になったら一直線なところは私自身」と語る城戸川りょうさん=東京都千代田区 商社に勤める女性が奮闘する姿を描いた「高宮麻綾の引継書」で、作家デビューを果たした城戸川りょうさん。自身も商社で働く会社員だ。組織に所属するがゆえの制約もあるが、「会社員だって冒険できるし、社
「ソ連崩壊」からプーチン大統領の登場、そしてウクライナ戦争に至るまで国際舞台の裏側にいたスパイの暗躍を暴き、現代史の一端を解き明かす。著者はジャーナリストの視点で機密性の高い文書などに当たり、自ら取材する手法を取り、読者を大いに引き付ける。 ソ連はなぜ終わりを迎えたのか、プーチン大統領はなぜウク
一般的に「アニメの現場」と聞いて思い浮かぶのは、2019年のNHK朝ドラ「なつぞら」で描かれた高畑勲、宮崎駿らアニメーターや、アニメ「SHIROBAKO」でリアルに表現されたアニメスタジオなどだろう。所狭しと机が並んだスタジオで、アニメーターが原画を描いてはほごにし、うろうろと歩き回る。そうした典
著者は詩人として注目されたのち、小説でも芥川賞を受賞した。そんな著者の新刊「移動そのもの」は、一見すると9編を収めた短編集のような体裁であるが、詩と小説の中間のような散文作品集である。 冒頭の表題作がまず変わっている。他人の葬儀に入り込み遺産を横取りする詐欺師の2人組がいて、なぜかチンパンジーと