アルゼンチン 36年ぶり優勝 アルゼンチンPK戦制す

延長後半、勝ち越しゴールを決めるアルゼンチンのメッシ(右)=18日、ルサイル(ロイター時事)

 【ルサイル時事】サッカーのワールドカップ(W杯)カタール大会最終日は18日、ルサイルで決勝が行われ、国際連盟(FIFA)ランキング3位のアルゼンチンが同4位フランスを3―3からのPK戦の末に破り、マラドーナを擁した1986年メキシコ大会以来、36年ぶり3度目の制覇を果たした。

   優勝3度は歴代単独4位。フランスは史上3チーム目となる連覇を逃した。賞金は優勝が4200万ドル(約57億円)、準優勝は3000万ドル(約41億円)。

   アルゼンチンが前半に2点を先行し、フランスも譲らず後半に2得点。延長戦でもアルゼンチンがメッシの2点目で勝ち越したものの、終了間際にフランスがエムバペのハットトリック達成で追い付く激闘となった。PK戦はアルゼンチンが4人続けて成功し、4―2で制した。

   大会最優秀選手にはW杯優勝の悲願をかなえたメッシが史上初の2度目の選出。得点王には8ゴールのエムバペが輝いた。次回2026年大会は米国、カナダ、メキシコの3カ国共催で、出場チーム数を32から48に拡大して行われる。

   17日には、ドーハで3位決定戦が行われ、国際連盟(FIFA)ランキング12位で前回準優勝のクロアチアが、アフリカ勢で初の4強入りを果たした同22位のモロッコを2―1で下した。

   クロアチアは前半7分にセットプレーから先制。直後に追い付かれたが、オルシッチのゴールで勝ち越し、そのまま逃げ切った。1986年大会のベスト16を上回る最高成績が確定していたモロッコは反撃も及ばなかった。

 アルゼンチンがPK戦の末に勝った。序盤から中央のメッシ、左サイドのディマリアが起点になって主導権を握った。メッシのPKで先制し、カウンターからディマリアが決めて追加点。しかし同点とされ、延長後半にもメッシのゴールでリードしたが逃げ切れなかった。PK戦では4人連続で成功し、フランスは2人が失敗した。

   フランスは苦しい時間が長かった。エムバペが3ゴールを挙げる活躍で2度追い付くしぶとさを見せたが、最後はPK戦で涙をのんだ。

  粘り強さ 栄冠の原動力に

   大一番でアルゼンチンの粘り強さが光った。後半30分ごろまで主導権を握れたのは、球際の激しさで上回ったから。ボールを奪われても、素早く帰陣してピンチを早めに回避した。

   延長後半、土壇場で再び同点とされた後には大ピンチが訪れた。ロングボールでDFラインの背後を突かれ、フランスのコロムアニがGKと1対1に。絶体絶命と思われた中、GKのE・マルティネスが重心を落として必死に足を広げると、シュートは左足に当たって事なきを得た。

   「本当に苦しい試合だった。延長でも追い付かれて、僕たちは苦しむ運命なのだと思う」。そう振り返った守護神がPK戦でヒーローになった。

   コースを読み切り、2人目のコマンのシュートを止めると、重圧がかかったのか、3人目のチュアメニも失敗。アルゼンチンは4人目のモンティエルまで全員が成功させ、歓喜の瞬間が訪れた。

   最後のW杯と位置付けたメッシを中心に、ここまでチームが一つになって走ってきた。南米のチームらしいしたたかさと、献身的な戦いぶりを兼ね備えた集団。デパウルは「みんな一緒に勝者になった。このうれしさは説明できない」。試合後、選手たちはシャンパンの瓶を手に大合唱しながら、興奮冷めやらぬ様子でミックスゾーンを通り過ぎた。

  メッシ、W杯で悲願達成 「神の子」最高の終幕 

   最大の夢をかなえた。何よりも欲しかったW杯の優勝トロフィー。アルゼンチンのメッシは少年のような笑顔で手をこすり合わせ、受け取るとキス。「待ち望んでいたものがここにある。美しい」。大事そうになでながら仲間の元へ。雄たけびを上げ、高々と掲げた。

   王者フランスとの決勝は、歴史に残る死闘となった。3―3の激しい打ち合いからPK戦へ。メッシは後蹴りの1番手。先にエムバペが決めて重圧がかかる中、冷静に左へ流し込んだ。相手は2、3番手が失敗。アルゼンチンは4人続けて成功し、栄冠をつかんだ。

   その瞬間、8万8966人で埋め尽くされた観客席から、地鳴りのような大歓声。メッシはその場に膝をつき、両手を大きく広げた。センターサークルに歓喜の輪ができる。自身最後と位置付けた5度目のW杯。輝かしい経歴で唯一足りなかった悲願を達成し、最高のフィナーレを迎えた。

   エースは力強くけん引した。前半23分のPK。蹴る直前にスピードを緩めてGKの動きを見極め、逆をついて右へ先制ゴール。2―2の延長後半3分は、味方のシュートのこぼれ球に即座に反応。レフティーは右足でボレーを押し込んだ。

   土壇場で同点にされても信じていた。「神様は(優勝を)与えてくれると思った。こうなる予感がした」。決勝トーナメント1回戦から決勝まで4戦連続ゴール。全7試合にフル出場して7得点3アシストと輝きを放ち、史上初となる2度目の大会MVPに選ばれた。

   母国が前回制した1986年大会は、2年前に死去した英雄マラドーナさんが活躍し、「マラドーナのための大会」と呼ばれた。36年後。同じ10番を背負った「神の子」は、魔法のようなプレーで次々と得点を生み出し、トロフィーを奪還した。「メッシのための大会」が華々しく幕を閉じた。

  強心臓で56年ぶりハット 仏エムバペ、次世代の顔に

   連覇に向け、何度も食い下がった。フランスのエムバペは2点を追う後半35分、味方が得たPKで位置に付く。表情は変わらない。右足で放ったシュートがGKの手をはじき、ゴール左へ。それまでは自身もほとんど攻撃に絡めなかった中、チームを勢いづけた。

   直後に最大の見せ場。味方とのワンツーでゴール前へ。浮いたボールに合わせ、右足を振った。倒れ込みながら放ったボレーシュートを突き刺して同点。再びリードを許した後の延長後半13分にもPKを決めた。W杯決勝ではハースト(イングランド)以来、56年ぶりのハットトリックを達成した。

   試合前まで5得点で並んでいたアルゼンチンのメッシとの争いを制し、8ゴールで得点王に輝いた。PK戦で自身は1番手のキッカーに。その前に蹴った2本と同じコースで左隅に決める強心臓ぶりを発揮したものの、チームは最後に力尽きた。口を真一文字に結び、表彰式で笑顔はない。選手が取材対応するミックスゾーンでは、呼び掛けに応じることはなかった。

   19歳で4ゴールを挙げ、鮮烈なデビューを飾ったのが4年前の前回大会。メッシは今大会で「最後」を明言し、ポルトガルのロナルドも年齢的に次はないだろう。W杯の主役を担ってきたスーパースターが消え、一時代が終わりを告げる。大会の顔を引き継ぐのに十分な非凡さを披露したエースが、衝撃を残してカタールの地を去る。

 クロアチア3位戦勝つ

   クロアチアが競り勝った。開始早々にFKからグバルディオルが頭で押し込み先制。直後に追い付かれたが、前半42分にオルシッチがゴール左から狙い澄まし、勝ち越し点を挙げた。攻守の切り替えが早く、カウンターが効果的。時間とともに無理には攻めず、中央を固めて逃げ切った。

   モロッコはダリが同点ゴールを奪ったものの、その後の好機は生かせなかった。疲労の色が濃く、後半は細かいミスが目立った。終盤は前掛かりに出たが、相手の堅守を崩せなかった。

  死力尽くし手にした3位 未来へ、こだわった勝利 クロアチア 

   互いに死力を尽くす戦いで、クロアチアが最後の力を振り絞った。2大会連続の決勝を逃して迎えた締めくくりの一戦。疲労は限界に達していたものの「3位で故郷に帰る」と決意を口にしたのはコバチッチ。不屈の闘志は失っていなかった。

   開始7分にFKからグバルディオルが頭で押し込んで先制したが、その2分後に追い付かれた。嫌な流れでも、このチームには泥臭さがある。ボールを失ってもすぐに奪い返し、前半42分にオルシッチがゴール左からシュート。右ポストにはね返り、ネットを揺らした。

   モロッコとは1次リーグ初戦でも当たり、0―0で引き分けた。手の内は分かっている。カウンターが持ち味の相手にある程度ボールを保持させ、中央を固めた。徐々に逃げ切り態勢に持ち込む巧みな試合運び。優勝候補のブラジルも破ったしたたかさで、快進撃を続けてきた難敵を退けた。

   旧ユーゴスラビアから独立後、初出場となった1998年大会で3位と躍進。成功を見て育ったモドリッチらが4年前に準優勝を果たし、そこから若手も台頭した。「小国でも大きな成果を上げられると知ってほしい」とダリッチ監督。国民を勇気づけた過去があったからこそ、一つでも上の順位にこだわった。

   前回大会後にマンジュキッチら主力が代表を引退。世代交代が進んだが、最後まで粘り強く戦う姿勢は20歳のグバルディオルら新世代の選手に受け継がれている。「このメダルを誇りにしたい。クロアチアの未来につながる」とモドリッチ。今大会の激闘も、将来の糧になるはずだ。

  ◎サッカーW杯最終日

   ▽決勝(ルサイル)     

         2―0       

         0―2       

  アルゼン 3 延 長 3 フランス

  チン     0―0       

         1―1       

       (PK4―2)     

   ▽得点者【ア】メッシ2(23分=PK、108分)ディマリア(36分)【フ】エムバペ3(80分=PK、81分、118分=PK) 

   ▽観衆 88966人    

  (アルゼンチンは9大会ぶり3度

  目の優勝)          

  ◎サッカーW杯第22日の結果

    ▽3位決定戦        

   クロアチア 2―1 モ ロ ッ コ