勝ち残りの土俵下で、大の里は涙をこらえ切れなかった。想像を絶するほどの重圧と闘っていたのだろう。館内の大歓声と万雷の拍手が鳴りやむことはない。「優勝した実感が湧いた」。かみしめるように言った。
勝てば初賜杯獲得が決まる阿炎との一番。相手の突きをあてがい、持ち前の馬力で前に出る。左からのおっつけを効かせながら押し出し、「落ち着いて対応できた」。初日に横綱照ノ富士を破るなど、勢いを保ったまま圧巻の内容で締めた。
3月の春場所は千秋楽まで優勝の可能性を残しながら、新入幕の尊富士に逃げ切られた。「あとちょっとだったのに、という気持ちになった。すごく悔しかった」。平常心を装っていたが、「ずっと意識していた」と明かしたように賜杯への渇望は募るばかりだった。
14日目に単独トップに立ち、師匠の二所ノ関親方(元横綱稀勢の里)から「これ(優勝)が目標じゃないぞ」と声を掛けられた。目指すのは、その先にあるさらに上の地位。通過点にすぎないと捉えると、「気持ちが楽になった」と大の里。硬さはなくなっていた。
日体大を経て入門し、1年余り。幕下付け出しデビューからわずか7場所目での最速優勝に「想像もしていなかった。うれしい」と声を弾ませる。1横綱2大関が休場した中、攻撃相撲で沸かせた。恵まれた体格には似合わない、小さなまげを結えるようになったばかり。次世代のスター候補に力強く名乗りを上げた。