サロン「ハマ遊の友」の玄関から、「こんにちは」と言って、マスクをした、背の高い、見覚えのない青年が入ってきた。手に持つ袋から、何かを出す目は笑っている。
えっ、誰だ? 隣の店の店員か? いや違う。誰だ? 覚えていない。内心、動揺していると「お久しぶりです。きょう、修学旅行から帰ってきました。これ、お土産です」と言いながら青年がマスクを外す。その瞬間に思い出した。大きめの学生服を着て、入学式の日に父親とあいさつに来たあの男の子だ。
たった2年くらい会わないうちに、こんなに立派な青年に成長し、いきなり現われたのだから驚いた。すぐに気付かない、こんな失礼なおばさんにお土産を用意してくれるとは、感激して涙が出た。少し時間がかかったけれど、思い出すことができて本当に良かった。
年を取るにつれ、頭や体は必ず老化していく。街で声を掛けられても、どこの誰なのか分からず、思い出すことすらできなくなる。大切にしていた物は、どこへしまい込んだのか、いまだに分からず。人の名前も覚えられない。覚えていたことは、一つずつ忘れていく。生活に不安があるけれど、仕方がないから開き直る。
認知症になったって、いいじゃない。ぼけたと言われてもいいじゃない。どん、と構えて息絶える、その時が来るまで生きりゃあいい。この世に生まれた時、頭の中はゼロだったんだから、今から一つずつ減らしてゼロに近づけていけばいい。良いことも、悪いことも全部忘れ、命が終わる時にはゼロになって生まれた時に戻りゃあいいと思いつつ、10歳以上年上の方や、ゼロになるまで、ほど遠い方々と日々を楽しんでいる。
(みらいづくりハマ遊の友代表・苫小牧)