野生動物と人間の距離が近づいている―。そう思わせるような1年だった。苫小牧市内でエゾシカが頻繁に街に出没し、家の庭を荒らしたり、車とぶつかったりする事例が多発。郊外を中心にヒグマの目撃情報も例年以上に相次いだ。野生動物とのあつれきを避け、共生可能な方法は何か。行政の模索が続いた。
「今年も全道で最多になりそうだ」。苫小牧署交通第1課の署員が、苫小牧で近年続発したシカと車の衝突事故を振り返り、今後も続く不安を口にした。
道警によると、2021年に市内で起きたシカと車の交通事故は前年比61件増の303件で、市町村別で全道トップ。今年も多発し、1~10月末に前年同期比で33件増の237件を数え、すでに道内の市町村の中で最多を記録した。
大型動物との衝突は重大事故を招きかねないことから、市は今年、試験的な対策を始めた。勇払や弁天の一部市道沿いに繁茂する雑草を広く刈り取り、ドライバーがシカの動きを早めに察知できるようにした。
市環境生活課の武田涼一課長は「郊外の交通量の多い道路と、シカの生息域がオーバーラップしている。見通しを良くし、早めにシカに気づいてもらうのが狙い」と説明。効果を検証した上で、来年度も事業を継続したい考えだ。
住宅街などへの出没も例年になく多かった。同課によると、市に寄せられた通報はここ数年、100件台で推移していたが、今年は1~3月の冬から春先にかけた3カ月間だけで計227件に達し、前年同期の3倍以上に激増した。
武田課長は「昨冬は大雪で餌不足となり、市街地にまで餌を探しにやって来たのではないか」と推測。住宅の庭や菜園が荒らされたり、子どもが利用する公園がふんで汚されたりする被害も目に付き、「最近は人を見ても逃げない、怖がらないシカも目に付くようになってきた」と変化を指摘する。対策で市は来年2月にも市街地周辺にくくりわなを設置し、約50頭の捕獲事業に乗り出す構えだ。
一方、ヒグマの目撃情報も市内で大幅に増えた。4月以降の目撃情報は今月15日までに61件と、前年同期を21件上回り、すでに過去10年間の最多を更新した。市が理由の一つとして挙げるのが個体数の増加。また、人の生活域に入り込む事例が道内で目立つようになった中、目撃者による通報意識の高まりも背景にある―とみる。
危険回避に向けて市は3月、ヒグマの危機管理マニュアルを策定したほか、行動圏調査も検討している。AI(人工知能)搭載のドローン(小型無人飛行機)や定点カメラなどの活用も視野に入れ、ヒグマの動きに基づく実効性のある対策につなげたいという。武田課長は「動物と人との共存の観点からも、効果的な方策を探っていきたい」と話した。
(河村俊之)