―22年の工場運営を振り返って。
「昨年4月、グループ会社の王子マテリア名寄工場(2021年12月閉鎖)から抄紙機1台を苫小牧工場へ移設し、段ボール原紙の生産量を増やしたことが一番の出来事。主力だった新聞用紙の需要が年々減少していく中、これだけで工場を維持するのは難しいという背景がある。現在は計8台の抄紙機をそろえ、工場の生産能力は過去のピーク時とほぼ同じとなり、生産量も最高水準になった」
―社内のデジタル化への取り組みは。
「スキルを持った社員の高齢化が進む一方で、若い社員は少なくなった。積み上げた技術を下の世代に継承するという、これまでのやり方を変える取り組みを進めている。特に機械のメンテナンス関係は、かつては直接触れたり音を聞いたりと人の五感に頼って整備していた。現在は生産設備に計測機器を積極的に導入し、デジタルデータとして機械の情報を収集している。データを見た人がどのように整備するかを判断するシステムの構築を少しずつ進めている。とはいえAI(人工知能)を用いた効率化や、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進には乗り遅れている。今後の課題になっていくと思う」
―カーボンニュートラルの取り組みは。
「王子グループ全体として、2030年に18年比で温室効果ガスを70%削減し、50年に実質ゼロにする目標を立てている。苫小牧工場では、30年までに石炭・重油の使用量を削減し、より環境に配慮した燃料への転換を目指している。昨年12月から工場内の発電ボイラー1基を使い、石炭の代わりとなるバイオマス燃料で、木材を炭化させた『ブラックペレット』を利用する燃焼試験を始めた。第一歩として石炭を減らすところから、脱炭素化への道筋を付けたい」
―今後の課題は。
「ロシアによるウクライナ侵攻以降の原料・燃料価格高騰への対応と、人手不足が大きな課題になっている。特に人手不足は、グループ会社内で段ボール原紙の生産体制を再構築し、苫小牧工場での生産量が急激に伸びたことが大きい。18年以来となる新卒採用を昨年から再開した。苫小牧市内や近隣町の高校生に募集を掛けているが苦戦し、担当者が道内各地の高校を求人で回っている状況だ。新卒で入社した人が戦力になるには5年程度かかる。将来の工場の人員構成も見据え、持続性を確かなものにするためには、今のうちから採用を強化していきたい。若い方には『新聞用紙を造っている工場』というイメージが強いだろうが、新しい領域への挑戦を続け、生産量も過去最高水準であることを知ってもらい、やりがいある仕事ということを伝えたい」
メモ 苫小牧工場は1910(明治43)年に創業。新聞用紙や段ボール原紙のほか、コミック用紙も製造している。従業員数は583人(2022年6月時点)。