韓国を知り合いと一緒に観光旅行中、思いがけぬ災難に見舞われる。
オプショナルツアーに参加してランチの時、連れがビールを大瓶で3本も注文したのに、ほとんど口をつけようとしない。急に飲みたくなくなったのだという。
やむなく私が一手に引き受け、さして飲みたくもないビールを無理に胃袋に流しこむ。
トラブルは食後の観光バスの中で起きた。ビールを飲みすぎたので、ほどなく尿意を催してくる。ところが高速道路で事故渋滞に巻きこまれ、休憩地点のサービスエリアにいっこうにたどり着かない。必死にこらえるあまり、全身から脂汗が噴き出し、顔が青ざめていく。
ついに辛抱たまらず、車掌さんに泣きついた。だが高速道路上ではどうすることもできないという。
そしてとうとう我慢の限界に達する。私は、中身のほとんど入っていないペットボトルを2本も持って、恥ずかしながらバスの最後尾に行って……。う~ん、これ以上はとても書けません。
そんな屈辱的な体験をしたこともあり、私にだって学習効果というものがある。海外でトイレのないバスや船に長時間揺られるときには、水分はもちろん、食べ物も乗車・乗船前に取らないように心がけている。特にアジアでは長距離のバスや船が5、6時間もノンストップで走ることがそんなに珍しくない。途中で催してもどうにもならず、悲惨な目にあいかねない。
直近ではラオス中部の古都からスピードボートに揺られてタイ東北部の国境をめざしたときのこと。当然私は乗船する数時間前から何ひとつ口にしない。ところが同じ船に乗る白人の若い男女は、出発地点の船着き場のレストランでおおいに飲み食いを楽しんでいる。
そして8人乗りの小さなボートは爆音を立てて、メコン川の支流を飛ばしていった。数時間後にどうなったか?
白人たちは相次いでトイレタイムを船頭さんに要求した。しかし、両岸はどこまで行っても断崖絶壁、もしくはジャングルなので、岸辺に乗りつけようがない。
男性はまだしも、うら若きお嬢さんたちが気の毒というしかない。お尻を疾走するボートの縁から、おっかなびっくり川面に突き出し、泣き笑いを浮かべて用を足すしかないのだった。海外旅行では、乗車・乗船前の飲み食いには、くれぐれもご用心。
★メモ 厚真町生まれ。苫小牧工業高等専門学校、慶應義塾大学卒。小説、随筆などで活躍中。「樹海旅団」など著書多数。「ナンミン・ロード」は映画化、「トウキョウ・バグ」は大藪春彦賞の最終候補。浅野温子主演の舞台「悪戦」では原作を書き、苫高専時代の同期生で脚本家・演出家の水谷龍二とコラボした。