私は、作家としてお世話になってきたアジアの国々で、奨学金制度「内山アジア教育基金」を主宰している。
われわれの基金を支援する山川夫妻は、フィリピンで6人もの小学生に奨学金を出している。このほど支援の主戦場たる現地を訪れた。
私の紹介で初めて会う子どもたちを集めて、ビーチ沿いのしゃれたレストランでパーティーを催したのだという。
帰国した山川さんが私に会うなり、苦笑いを浮かべた。
「いやはや、大変なパーティーでした。どうして最初に教えてくれなかったんです?」
「何か不愉快なことでもあったんですか?」
山川さんはきっぱりと首を横に振る。
「そんなことは一つもありません。でも驚いたことが……」
「驚いたこと?何でしょう?」
「子どもたちと一緒にファミリーも招待したら、いったい何人やってきたと思います?」
私の中ではじけるものがあった。
「子どもの数は6人ですが、そのファミリーまで呼んだら、なんと総勢100人くらいになったんです!」
山川さんは、やってくるのはせいぜい子どもの両親だけだろう、と思っていた。ところが現地の常識はまるで違うようだ。
私がかつてマニラで現地の女性と暮らしていた時のこと。彼女が甘えるようにいった。
「クリスマスにファミリーが田舎から出てくるんだけど、うちに泊めてもいいでしょう?」
断る理由はない。で、どうなったか?
親兄弟を含めて、5、6人でやってくるのだろうと思いこんでいた。しかし、実際には18人もの家族がわが家に押しかけてきたではないか。
フィリピンでは「家族みんなできてください」なんていおうものなら、親兄弟はもちろん、祖父母、オジさんオバさん、いとこ、はとこ、場合によっては遠縁の人までわんさかやってくる。
決して図々(ずうずう)しいというわけではない。家族という概念がわれわれとはまるで違っているのだ。大家族主義なんだから楽しみはみんなでわかちあおう、というのがフィリピン流である。
「自分ひとりの支払いで、ああまで盛大なパーティーをやること、もう私の人生で二度とないでしょうね」
山川さんは苦笑いしながら好々爺(こうこうや)の顔でうなずくのだった。
★メモ 厚真町生まれ。苫小牧工業高等専門学校、慶應義塾大学卒。小説、随筆などで活躍中。「樹海旅団」など著書多数。「ナンミン・ロード」は映画化、「トウキョウ・バグ」は大藪春彦賞の最終候補。浅野温子主演の舞台「悪戦」では原作を書き、苫高専時代の同期生で脚本家・演出家の水谷龍二とコラボした。