政府は16日、国家安全保障会議(NSC)と臨時閣議を開き、外交・安全保障の基本方針となる「国家安全保障戦略」「国家防衛戦略」「防衛力整備計画」の3文書を改定した。敵のミサイル基地をたたく「反撃能力」(敵基地攻撃能力)保有を明記、能力行使のために米国製巡航ミサイル「トマホーク」の配備を打ち出した。
背景には、軍事行動を活発化させる中国や北朝鮮への警戒がある。平和憲法の下、打撃力を米軍に頼ってきた戦後日本の安保政策の大転換で、専守防衛の基本理念が変質する恐れがある。
岸田文雄首相は改定後に記者会見し、「相手に攻撃を思いとどまらせる抑止力となる反撃能力は今後不可欠となる」と説明した。
「安保戦略」では、「既存のミサイル防衛網だけで完全に対応するのは難しくなりつつある」と反撃能力の必要性を強調。「武力行使の3要件に基づき、必要最小限度の自衛の措置として、相手の領域において、わが国が有効な反撃を加えることを可能とする」と反撃能力を位置付けた。
専守防衛から逸脱するとの批判を意識し、「憲法および国際法の範囲内で、専守防衛の考え方を変更するものではない」と説明。能力を行使する場合は「日米が協力して対処していく」とした。
今後、トマホークだけでなく、国産の射程距離1000キロ超のスタンド・オフ・ミサイル開発を進め、2026年度からの配備を目指す。地上や艦艇からの発射だけでなく、潜水艦発射型のミサイル開発も進める。
安保戦略は中国について、国際秩序への「これまでにない最大の戦略的な挑戦」と記述。「防衛戦略」では、8月に中国の弾道ミサイルが日本の排他的経済水域(EEZ)内に落下したことに触れ、「地域住民にとって脅威」とした。
北朝鮮について安保戦略は「重大かつ差し迫った脅威」と警戒度合いを強め、ロシアについては「安保上の強い懸念」と記した。
一方、防衛力強化の裏付けとなる防衛費は、新たな「防衛力整備計画」で、27年度までの5年間の総額を約43兆円とし、現行計画に比べ約1・5倍に増額する。安保戦略には、27年度に防衛費と研究開発など関連経費と合わせ、現在の国内総生産(GDP)比2%とする目標を掲げた。
この他、安保戦略には、経済安全保障や安倍晋三元首相が提唱した「自由で開かれたインド太平洋」の推進が盛り込まれた。