「今時期の天気の良い日にはほぼ毎日、来ている」
昨年12月21日早朝、苫小牧市植苗のウトナイ湖の水辺。厚い防寒着に身を包み、静かに遠くを見詰めながらカメラを構え、そう語った。
午前7時すぎ、薄暗かった空はオレンジ色に染まり、結氷が進む湖で羽を休めるオオハクチョウを鮮やかに照らしだす。そこにけあらしが加わる幻想的な光景が広がると、静寂を切り裂くようにシャッター音が響き渡った。
白老町北吉原出身。地元の中学校を卒業後、大昭和製紙(現日本製紙)の白老工場で働き始め、初任給で購入したのが当時はやっていたオリンパスのハーフサイズフィルムカメラ。「とにかくいろんなスナップ写真を撮って楽しんでいた」
40歳の頃、町内で偶然、撮影に成功したハヤブサに魅せられ、野鳥に関心を持つようになった。その後、一眼レフカメラや望遠レンズなどの機材をそろえ、北大苫小牧演習林(現苫小牧研究林)やウトナイ湖へ頻繁に足を運ぶようになった。その頃はまだ、車の運転免許証を取得しておらず、白老から電車やバスを乗り継いで撮影スポットに向かった。ラムサール条約登録湿地の同湖はもちろん、地域住民の休養緑地として親しまれる演習林は野鳥の宝庫。「機材を担いで苫小牧駅から演習林まで歩いたこともあった。マガンの渡りやクマゲラを撮影できるのがうれしくて、どんどん苫小牧にはまった」
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58歳の時、退職後の生活について夫婦で話し合う中、「近郊で買い物が便利な場所に引っ越したい」という妻の声も考慮し、苫小牧移住を決断。当然のように大好きな同湖に近い場所から探し、2005年、沼ノ端に移住した。それから湖畔通いは、ほぼ日課。「四季折々で見られる景色や野鳥、草花が異なり、飽きることはない」
「湖が凍る光景が見たくて」「ハクチョウを撮りに来た」。昨年12月30日早朝、“撮り納め”に同湖へ出掛けると、自分の他に10人ほどがカメラを手に集まっていた。観光から映像制作まで目的はさまざま。「昨年、朝日がきれいだったのでまた来た」と大阪からの道内旅行中に寄った夫婦もいたが、市民の姿は少なく、寂しく感じた。
苫小牧の自然の魅力を少しでも伝えられたら―と、移住を機に始めたのが、野生鳥獣保護センターで開く同湖や周辺で撮影した野鳥の写真展。毎年5~6月、1年間撮りためた作品の中から20点程度を厳選して披露している。これまで18回開催しライフワーク化している。同湖も研究林も市民には身近過ぎるのかもしれないが、もっと多くの人に足を運んでほしいと願う。直接見たり、触れたりすれば、その魅力は必ず伝わると確信している。
(河村俊之)