長年暮らした北九州市から縁もゆかりもない苫小牧市に移り住んで、もうすぐ8年になる。定年退職後に暮らす場所を探すレンタカーでの旅の途中、高速道路から偶然見えた景色に心奪われ、移住を決めた。頭上を飛ぶ渡り鳥に心を癒やされたり、生涯学習に打ち込んだりと充実した第二の人生を送る。「夏は涼しく冬に雪が少ない苫小牧は、シニア層にとって住みやすいまち」と力を込める。
長崎県南島原市出身。高校卒業後、北九州市の製鉄所に就職。45歳ごろから退職後の新天地についてあれこれ考えていたが50歳になり、妻と2人で本格的に移住先を探し始めた。
クーラーや扇風機の風も苦手なため、第1条件は夏でも涼しい場所。雪かきの負担を考慮し、豪雪地帯は除外。日本列島を北上するようにして移住先を探すうち、まずは北海道に候補地が絞られた。実際に来道し、妻と2人で住みやすそうな土地を探す道すがら、たまたま苫小牧を通り掛かり、美しい海原に目が止まった。
「この辺りに売り地があるといいね」。何気ない妻との会話だったがその後、錦岡の小高い場所にある土地が売りに出されていることを知り、縁を感じて土地を購入。2015年3月、苫小牧に引っ越した。
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冷涼で過ごしやすい気候に加え、水や空気もきれいな苫小牧での生活は「申し分なし」。自宅から朝日を見られる眺望の良さにも満足している。数百羽の渡り鳥の群れがVの字となり、ウトナイ湖を目指して鳴きながら飛ぶ光景を目の当たりにして感動した。「こんな光景はテレビの中だけだと思っていた。まさか日常的に見られるとは」。近所に現れるシマエナガやシジュウカラ、エゾリスやキツネなどの野生動物との出合いも、夫婦の楽しみとなった。
苫小牧市民になって驚いたのは、市による生涯学習の環境が非常に充実している点。「市内のどこに住んでいても、幅広い選択肢の中から自分の学びたいことを選べる環境は首都圏にも引けを取らないと思う」
一方で残念に思うのは、道外の人に苫小牧の良さが十分に伝わっていないこと。九州の知人のほとんどが、「苫小牧」という地名すら知らなかった。理由は「圧倒的なPR不足」と考える。気候や自然環境、新千歳空港との近さなどの好条件がそろっているが「道外の人の視点から見ると、有名な観光地のある都市に押され、苫小牧の知名度はとても低い」と感じている。
全国の自治体が、人口減少対策として移住・定住の促進に力を入れる。苫小牧も市独自の移住支援金支給や移住体験プログラムなど試行錯誤しているが「今あるまちの良さに着目し、もっと積極的に発信すれば移住者は増えると思う」と実感を込めた。
(姉歯百合子)