• その仕組み、実は
    その仕組み、実は

       入社後、半年ほどがたち、まだラジオの解説も慣れていない中でしたが、テレビでの気象解説の研修が始まりました。放送中の現場を目の当たりにして驚いたのが、意外とあうんの呼吸で放送が成り立っている、というところが結構あるということです。  例えば、全道の天気から予想気温に画面が切り替わる、といった場

    • 2024年6月1日
  • すぐ行動に
    すぐ行動に

       「えっ、先生、知らないの?」  むかわ町穂別に「こども食堂」ができたと聞いて驚く私に、患者さんの方が驚いていた。地区の共有スペースを使って行われ、週に1回、子どもには無料で夕食を提供しているのだという。  「へえ、役場も頑張ってるんだな」と保健師に尋ねると、「私たちも知らなかったんです

    • 2024年5月25日
  • 貧困と難民が世界をつくる
    貧困と難民が世界をつくる

       大学は数々あれど、世界最高の頭脳が集まるのはMIT(米マサチューセッツ工科大学)だと信じている。ボストンのチェルシー川に面するMITの白亜のドームを訪れるたび、なんだか胸が高鳴る。4月11日、当社はMIT環境土木工学部のフランツ・ウルム教授の研究チームと電子伝導性炭素セメント材料「蓄電コンクリート

    • 2024年5月18日
  • いつもの自分と違う
    いつもの自分と違う

       3月の旭川は雪がところどころに残っていて春の装いをしてきたことを少し後悔したが、風がやむとつらさは軽減した。雪で滑らぬよう足をいつもの1・5倍上げながら「よいしょよいしょ」と歩くことで、5分たたぬうちに体は温まってきた。汗ばんできて半袖になってもいいほどだけれど、首から上はひんやりし、のぼせること

    • 2024年5月11日
  • 呼吸を合わせる
    呼吸を合わせる

       ラジオで天気を伝えるときに、まず一つ壁と感じたのが、「呼吸を合わせる」というところです。何気なくラジオで天気コーナーを聴いていると、パーソナリティーの方と気象予報士が同じ空間で話しているように聞こえるかもしれませんが、それぞれ別々の場所にいて、回線をつないで話している、ということが多くあります。

    • 2024年5月4日
  • 誇りと輝き
    誇りと輝き

       穂別に来て2年がたった。町の様子もだいぶ分かってきたし、診療後に会っておしゃべりする友達もできた。「そろそろ何かやりたいな」と思っていた時、一つの出会いがあった。  診療所に通う小山タエコさん。84歳でひとり暮らしの彼女は、診察の場面で体調や生活について尋ねている時に、ぽつりと話した。

    • 2024年4月27日
  • たえて桜の
    たえて桜の

       期せずして、旅先で出合う桜ほど、心躍るものはない。  今年最初の桜は、鹿児島県の中央部を流れる天降(あもり)川のほとりに咲く枝垂れだった。3月22日、すでに盛りは過ぎ、薄いピンクの花弁がはらはらと舞う。  ここは、イザナギとイザナミが最初に産んだ不遇の子ヒルコ(蛭子)を療養のために船で

    • 2024年4月20日
  • 桜咲くのは2000時間後
    桜咲くのは2000時間後

       2年くらい勉強を続けて、2010年10月に気象予報士の資格を取得しました。気象予報士の資格を取得するには、一般的に1000時間は勉強が必要と言われているのですが、私はおそらく2000時間以上は費やしたので、平均よりは時間のかかった方かなと思います。中には半年の勉強で取得したという人が現在の職場にお

    • 2024年4月6日
  • 東京の不便さ
    東京の不便さ

       「今のストレスってなに? お店も情報も少ない穂別の暮らし?」などと東京の友人に聞かれると、私はこう答える。  「そうね、今も時々、東京の病院で診療してるんだけど、そこで感じる不便さかな」  すると友人は「東京が不便ってどういうことなの?」と目を白黒させる。でも、本当にそう思うのだ。

    • 2024年3月23日
  • 新子焼きで頭がいっぱい
    新子焼きで頭がいっぱい

       もうすぐ春がくる。もうすぐ楽しみにしていた旭川への旅。北海道出身の人を見つければ「旭川だとどこがおすすめです?」と聞き、隙間時間ができればネットで「旭川 温泉」「旭川 湖」「旭川 観光」などと調べ続けて1カ月。もはや行った気にすらなってきた。しかし、ふと気付いたのだ。車で遠出を、と思い富良野だ大雪

    • 2024年3月9日
  • 卒業式の匂い
    卒業式の匂い

       3月になると、雪解け水と土が混ざり合って、どこからともなく土の匂いが漂ってくるようになりますが、その匂いを私は自分の中で勝手に「卒業式の匂い」と名付けています。通い慣れた学びやを後にする寂しい気持ちと、雪解けの水たまりが広がる道を進む中、ふと漂ってきた土の匂いが、私の頭の中で強く結び付いているのか

    • 2024年3月2日
  • ひそかなこだわり
    ひそかなこだわり

       穂別に来てとても感心したことの一つが、「一点豪華主義」で暮らしている人が多いことだ。  「一点豪華主義」というのは昭和時代に生まれた言葉だが、「暮らし全体は質素なのに、自分がこだわりを持つ特定の何かには出費を惜しまない生き方」というような意味だ。穂別には、「お芝居が大好きで東京まで見に行く」

    • 2024年2月24日
  • おじいちゃんと孫
    おじいちゃんと孫

       2月10日土曜の夕暮れ。地下鉄福住駅から札幌ドームへと向かう狭い歩道は人の波であふれかえり、ちっとも前に進まなかった。実に42年ぶりとなる伝説のロックバンド、クイーンの来道。4万8000円とオペラ並みのゴールドチケットをコートのポケットに忍ばせ、遠く線状に続く群れの中を牛歩で進んだ。  ミュ

    • 2024年2月17日
  • どこまでも
    どこまでも

       来月、旭川へ仕事で行くことになっている。それが今から楽しみで、仕事の前後にはレンタカーを借りてどこへ行こうかと、暇さえあればネットで調べているきょうこの頃。湯船にもスマホを持ち込んで調べ、引き続きベッドで横になって調べ続け、そのまま眠ってしまい翌日には調べた内容をほとんど忘れ、同じことをきょうも繰

    • 2024年2月10日
  • 続く冷え込み
    続く冷え込み

       小学生の頃、天文の分野に将来進むのもいいかも―と考えていた時期があり、よく星空を眺めていました。星の観察は、気温が低く、湿度が低い方が大気の透明度が高くなるため良くなると言われています。地元の北見市の冬はこの条件に当てはまりますので、寒空の下で見る星空は非常にきれいです。少し車で移動すれば、街灯の

    • 2024年2月3日
  • 防災のカタチ
    防災のカタチ

       2024年の新春の集いは、賀詞交歓の場から一転、黙とうと献杯の場へと切り替わってしまった。父方の祖母の家は能登半島の羽咋から角田(今の空知管内栗山町)に入った石川県の出身。一方、母方の祖父は福井県の大野から三石(今の新ひだか町)に入植した。北海道はいわば「越」の国の人たちが最初に切り開いたフロンテ

    • 2024年1月20日
  • この人は知っとる
    この人は知っとる

       大みそかは愛知県の96歳の祖母宅で過ごした。娘であるわたしの母はすでに他界し、一軒家で一人暮らしをしている。同じ通りに住む人たちも亡くなられたり引っ越されたりして、新しい世代の人たちが建て替えて住み始めた。子どもの頃からのなじみだった急勾配の通り。学校帰りは子どもたちが集まり、よくこんな急な坂でと

    • 2024年1月13日
  • 「でんき」のち「てんき」
    「でんき」のち「てんき」

       『昔は「でんき」の勉強をしていましたが、今は「てんき」の仕事をやっています。こんにちは、森和也です』というのが講演をさせていただく際の、つかみによく使う決まり文句です。  今から20年前、北見工業大学の「電気電子工学科」に席を置いているときには、まさか将来の自分が「でんき」ではなく「てんき」

    • 2024年1月6日
  • 集団接種は社交の場
    集団接種は社交の場

       この冬も、高齢者を中心とした町民へのコロナワクチン集団接種が始まった。ちょっとおかしな言い方だが、私はこの仕事が大好きだ。接種会場はいつも笑いにあふれているからだ。  「ワクチンでなぜ笑いが?」と不思議に思う人もいるだろう。会場での看護師と町民たちの会話を再現してみよう。  「あ、セー

    • 2023年12月23日
  • 友、そして仲間たち
    友、そして仲間たち

       先週末の9日午前、モンゴルのチンギス・ハーン国際空港に降り立った。首都ウランバートルはユーラシアのまさにヘソ。到着時の外気温はマイナス30度。息を吸うと思わずせき込んでしまうこのいてつく感覚は実に6年ぶりのことだ。年の瀬に無理して突っ込んだ1泊の弾丸出張である。  空港の出口付近に横付けして

    • 2023年12月16日
  • 小樽が、熱い
    小樽が、熱い

       男友達と、その友人の男性と3人で東京・下北沢のカフェバーにいた。わたしはハーブティー。初めて会う中肉中背の人の良さそうな男性は昼からビールをあっという間に飲み干し、忙しそうな店員さんに何度も「あ、ビールを、すみません」と申し訳なさそうに頼んだ。  「あ、私、中小企業の社長です~特技は土下座で

    • 2023年12月9日
  • ピンチをチャンスに
    ピンチをチャンスに

       幼い孫と遊んでいると、「この子たちが成人する頃、日本はどうなっているのだろうか」という不安に駆られます。地球規模では、各地で大きな軍事的衝突があり、また温暖化の影響はますます激甚化していて、人類としての将来に大きな不安があります。加えて、日本の財政を見ると、政府債務の対GDP比は260%以上と先進

    • 2023年12月2日
  • 不便さいっぱい
    不便さいっぱい

       冬を間近にして穂別の人たちは相変わらず忙しい。タイヤは冬用に交換したし、まきの用意はできた。あとは畑の後始末を終えて、そうしたら漬け物を漬けて、次はいよいよ年越しの用意に取り掛かる。買い忘れているものがないか、毎日、台所のチェックに余念がないという人もいる。購買車がやって来るのは1週間に1回なので

    • 2023年11月25日
  • Uber考
    Uber考

       Uber(ウーバー)はここ数年で人の暮らしに最も大きな変化をもたらしたイノベーションの一つであろう。スマホに内蔵されたGPS(全地球測位システム)を巧みに使い、運転手と乗客のリアルタイムマッチングを実現させる魔法のようなスマホアプリだ。  私は世界中どこに行っても移動はUber、地域によって

    • 2023年11月18日
  • 最強のホタテスープ
    最強のホタテスープ

       東京にて舞台「リムジン」絶賛本番中である。向井理さん、水川あさみさん主演、倉持裕さん作・演出の作品。本当はコロナで世の中が大騒ぎになりはじめた2020年に本番を迎える予定だったが延期になり、3年たって上演の運びとなった。  劇場のある下北沢駅前には、今やマスクなしの人の方が多い。観劇中、お客

    • 2023年11月11日
  • 母と子
    母と子

       私は集団生活や自分の時間を拘束されるのが苦手で、学生時代、クラブ活動はほとんどしませんでした。中学入学の時に親からもらった星新一や北杜夫の本を読んで読書にはまり、通学中も帰宅してからも一人で本を読んでいることが多かったと思います。  私が北海道出身の小説家として最初に意識して読んだ本は、三浦

    • 2023年11月4日
  • 底力の見せどころ
    底力の見せどころ

       今年も”そのとき”がやって来た。宿舎の外のデジタル寒暖計が「0」と表示されるときだ。これから穂別は「零下の冬」を迎えるのだ。  沖縄の知人に「0」の写真を送ると、「こっちはいま25℃だよ」という返信が来た。日本ってけっこう広いんだな、と気付かされる。  診察室で

    • 2023年10月28日
  • 2度目のイスラエル
    2度目のイスラエル

       11月9日から実に25年ぶりにイスラエルを訪問する(予定だった)。フライトはドバイ経由テルアビブ行きEK933便。昨夜エミレーツ航空からテルアビブ発着の全便を26日まで運休するとの通知が来た。恐らくそれで収まらないだろう。運休スケジュールは日を追うごとに後ろ倒しとなり、私のフライトも”

    • 2023年10月21日
  • 寒い以外の思い出
    寒い以外の思い出

       「え、富良野にも住んでたの?」  夏に実家に戻った際、96歳になる祖母が、昔富良野に住んでいたと言い出した。「富良野にも駐屯地があったでねえ。だけど短い間だったわ。旭川から富良野に行って、すぐ旭川に戻ったもん」「お母さんが、小学生の頃?」「は?」「お母さんたちがー!小学生の頃ですかー?」「も

    • 2023年10月14日
  • 天からの手紙
    天からの手紙

       北海道大学の総合博物館の近くに「人工雪誕生の地」という石碑があります。これは、1935(昭和10)年に中谷宇吉郎教授が初めて雪の結晶を人工的に作ったことを記念したものです。中谷は「雪は天から送られた手紙である」という有名な言葉を残した物理学者であり、随筆家です。  私は明治・大正の文豪の生活

    • 2023年10月7日