「他なら絶対に不可能なこと。苫小牧市民の皆さんは本当に恵まれている」―。苫小牧市美術博物館の元学芸員、三村伸さん(69)は強調する。出光興産北海道製油所の地域貢献で、出光美術館(東京)収蔵の美術品を、同製油所や市の節目に合わせて展示してきた。市民に公開して喜ばれ、両館でも交流を深めてきた。
出光興産創業者の出光佐三氏が収集した貴重な名品は、苫小牧市の市制施行40周年だった1988年、市博物館(当時)で開かれた「海のシルクロード 陶磁の東西交流展」を皮切りにたびたび来苫。「他施設の学芸員から、よくうらやましがられた。それぐらい出光美術館の収蔵品をお借りできるのは貴重なこと」と説明する。
2013年の美術博物館誕生時、こけら落としも出光美術館の収蔵品展だった。日本陶磁の名品計110点を展示する「日本陶磁名品選~江戸時代前期の多彩な装飾世界」が実現し、「プレッシャーの掛かる一大事業だった」と話す。
第一、第二展示室に直径30センチ超の大皿や焼き物の数々がずらり。09年から活動していた「苫小牧に美術館を実現する会」の会長だった澤田知之さん(75)も「素晴らしい作品と展示場ですごいの一言。日本を代表する名品に負けない空間で、非常に感慨深い瞬間だった」と振り返る。
9月23日から美術博物館では、製油所50周年の節目を記念し、10年ぶりとなる出光美術館の特別展「近代美術名品選~四季が彩る美の世界」が開かれている。11月19日までのロングラン開催で、24日から作品を入れ替えて後期の展示が始まる。三村さんは「出光と市との友好な関係が末長く続いてほしい」と願う。
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製油所の地域貢献活動は芸術、文化の振興に大きな役割を果たしてきた。出光は製油所立地地域に感謝の気持ちを伝えようと、06年からコンサートイベントを開催。17年に「みらいを奏でる音楽会」と名称を変更し、若手音楽家の発表機会創出や子どもたちへの体験提供を図ってきた。記念すべき1回目の「市民ゲスト」は苫小牧市内の児童で構成する東小学校ブラスバンド同好会(現苫小牧ユースウィンズ)だった。
無料招待された市民1000人以上の前で、和楽器演奏グループ「AUN Jクラシック・オーケストラ」と夢のコラボ演奏。同会を指導する苫小牧吹奏楽連盟の松原敏行会長(67)は「子どもたちにとって貴重で、刺激的な場だった」と感謝する。
18年は苫小牧南高吹奏楽部、19年は苫小牧東高吹奏楽部がそれぞれ音楽会で一線級の音楽家と合奏。同年に来苫した吹奏楽団「こぱんだウインドアンサンブル」は拓進小学校に出向き、演奏披露や児童への楽器体験会も行った。
新型コロナウイルス禍の影響で20~22年は中止になったが、今年は4年ぶりに音楽会が復活。松原会長は「好きな音楽を続けるきっかけや地域のレベルアップにもつながる」と喜び、今後の継続に願いを込めた。