四つの涸れ沢 樽前山噴火で形成

四つの涸れ沢 樽前山噴火で形成
一の沢の地層から露出している炭化木

 モラップ地区の樽前山北面には四つの涸(か)れ沢があります。モラップから西に「一の沢」、「二の沢」、「三の沢」、「楓(かえで)沢」と並んでいます。

   これらの沢は1739年の樽前山噴火で流下した火砕流堆積物が冷却された後に、土石流の浸食によって形成されました。支寒内地区にある「苔(こけ)の洞門」同様に、南北に深い函(はこ)状の沢となっていて、さかのぼれば樽前山に出ることができ、登山道としても使われていました。

   楓沢は「苔の回廊」とも呼ばれ、閉鎖された苔の洞門に代わる新たな苔の景勝地として知られていますが、他の沢ではこのような苔の景観を楽しむことはできません。

   楓沢や苔の洞門の岩盤は主に溶結凝灰岩で構成されています。凝灰岩は火砕流噴出物が堆積してできる岩石ですが、噴出物が堆積した後に高温を保ったまま再融解し圧縮されて接着することを溶結といい、それによってできた岩石が溶結凝灰岩です。

   溶結凝灰岩は比較的浸食に強く岩壁に繁茂する苔を長く保つことができていますが、非溶結の凝灰岩で構成されたその他の沢の岩盤はもろく、大雨などですぐ崩れてしまい安定して苔が生息できないのです。

   ではなぜ、同じ火砕流堆積物によって形成されている沢にこのような違いがあるのか。それは火砕流の温度によるものだと思われます。おおむね溶結に必要な温度は600度以上とされ、その境目が溶結と非溶結の岩盤の違いを生み出したようです。

   一の沢は「炭化木の沢」とも呼ばれ、上流では地層に埋まった炭化木を見ることができます。これは1739年の噴火で降り注いだ火山灰などが周囲の木々を埋め、その上を火砕流が流れ下って木々をなぎ倒し蒸し焼きにしたものです。

   炭化木は楓沢で見ることはできません。溶結するほど高温だった楓沢の火砕流は木を蒸し焼きにはせず、燃やし尽くしてしまったのかもしれません。

   このような地形がわずか300年ほどで作り上げられ、間近で観察できることに驚くばかりです。

  (支笏湖ビジターセンター自然解説員 仲澤和隆)