難病で亡き息子の小説出版 苫小牧の衣斐大輔さん母

難病で亡き息子の小説出版
苫小牧の衣斐大輔さん母
本を手にする美稚子さん

 難病の脊髄小脳変性症で2年半前、39歳で亡くなった苫小牧市矢代町の衣斐大輔さんの小説「雲をとおる波」が本になった。母親の美稚子さん(69)が自費出版し、同級生らが販売の輪を広げている。楽曲制作やバンド活動に熱中していた20代の衣斐さんを主人公に重ねた作品で、美稚子さんは「悩みを抱えている若い人たちに読んでもらえたら」と願っている。

   衣斐さんは旧苫小牧弥生中学校を卒業後、市内の高校に進学したが1年で中退。札幌市で1人暮らしを始め中古レコード店で働きながら、楽曲制作からピアノ、ギター、トランペット演奏まで音楽活動に情熱を燃やした。その後、言葉によるコミュニケーションに問題がある人を援助する言語聴覚士を目指し、「好きな音楽と言葉が結び付く仕事だから」と猛勉強の末、28歳で国家資格を取得した。

   しかし、室蘭市内の病院で働いていた頃に体に異変を感じ、32歳で脊髄小脳変性症と診断された。運動機能が徐々に失われ、仕事ができなくなった。それでも病気を抱えながら、音楽ライブや貼り絵制作など創作活動に生きがいを見いだし、亡くなる約半年前には音楽CDも完成させた。

   「雲をとおる波」は「病気になる前に書き上げていたみたい」と美稚子さんは言う。音楽で巡り合った若者たちの群像劇で、主人公が新たな一歩を模索し始めるところで物語が終わる。2020年7月に衣斐さんが亡くなった後、原稿を読み返した美稚子さんは、本にしたかったであろう思いをかなえてあげたいと印刷会社に依頼し、60部を同級生や知り合いに贈った。

   親しかった人に贈るだけのつもりだったが、昨年になって同級生から「この本を残したい」と相談され、再出版に心が動いた。制作費用を工面するため今回は販売することにし、同11月に160部を刊行。同級生らが率先して購入したり、販売を担ってくれたりしている。

   その1人、村瀨忠史さん(41)=市内桜木町=は「小説を読むと衣斐さんをじかに感じられる。生きている間に、いろいろと語りたかった」と悔やむ。自身が趣味で続けているバンドのライブ会場でも販売し、「一緒にライブをしている感覚になった」という。村瀨さんは「純粋に小説としても魅力があり、衣斐さんを知らない人にも共感してもらえると思う」と話している。

   本はA6判、304ページで1000円。市内ではティーテラス槻(弥生町)、カフェサマルカンド(末広町)などで販売している。