ウサギの命を支える かわいらしさの奥に立派な歯

ウサギの命を支える
かわいらしさの奥に立派な歯
過去に保護されたユキウサギの子ども

 2023年の干支(えと)にちなんでウサギのお話。

   ウサギといえば、童話や童謡にもよく登場し、その特徴的な長い耳に大きな目をしたかわいらしさもあって、子どもから大人まで人気の高い動物です。しかし、多くの人々が慣れ親しんでいるにもかかわらず、意外にも野生のウサギを目にする機会はほとんどありません。

   北海道には、2種類のウサギが生息しています。高山帯に生息していて、まるでずんぐりしたネズミのような形をしたナキウサギ(ウサギ目ナキウサギ科)。そして、低地から亜高山帯の森林や草原などに生息するユキウサギ(ウサギ目ウサギ科)です。

   後者のユキウサギは、私たちの身近な環境で生息していますが、あまりその姿を見る機会がない理由に夜行性であること、そして警戒心が非常に強いことが挙げられます。私もウトナイ湖周辺で実際にユキウサギを見たことがあるのは、これまでたった一度だけ。また、傷病鳥獣として搬入されたのも、ウトナイ湖野生鳥獣保護センターが開設し20年のうち、2例のみでした。いずれも残念ながら救命には至りませんでしたが、初めて手当てを施したユキウサギの印象は、やはりその立派な歯でした。

   ウサギの仲間は「重歯目(じゅうしもく)」に分類され、その字のごとく、歯が重なっています。どこの歯かというと、上顎切歯、すなわち上の前歯です。正面から見ると大きな前歯が二つ並んで見えますが、実はその裏側には一回り小さい前歯がさらに二つ存在しており、それらが重なっていることが「重歯目」とよばれるゆえんです。

   また、ウサギの歯は生涯を通じ生え続け、なんと前歯に至っては1年間で10センチほども伸びるといわれています。そのため、繊維質の多いイネ科などの植物をしっかりかんで食べることで歯はすり減り、適正な長さを保ち続けることができます。しかし、この歯が適正に保たれていなければ、餌を食べることができず、たちまち消化器疾患に陥り生命を脅かすことも。まさに「歯は命」なのです。

   口元に秘める、命を支えるウサギの歯。普段は外見のかわいらしさが目を引きますが、実はその奥に、命を支える立派な歯があることを、知っていただけたらと思います。

  (ウトナイ湖野生鳥獣保護センター・山田智子獣医師)