皆さんは「F―REI(エフレイ)」をご存じだろうか。この耳慣れない言葉。「福島国際研究教育機構」の頭文字を取った、福島にできる巨大研究機関の略称だ。
原子力災害からの復興再生を目指す福島県の浜通り。この地に「世界に冠たる」研究開発の拠点「F―REI」を新たに整備し、浜通りの創造的復興の切り札とする政府の構想が今年いよいよスタートを切る。立地は浪江町の駅西側に広がる10ヘクタールを超える広大な敷地。要するに、原子力災害で住民が離散したエリアに内外の研究者らが集う学術都市を丸ごとつくり、悲劇の浜を「イノベーションコースト」につくりかえるという壮大な社会実験だ。
ロボット、エネルギー、機械化農業、放射線科学など研究の領域は多岐にわたる。今月13日、第1回のF―REIネットワーキングセミナーの会場となった東京の虎ノ門ヒルズのホールは、F―REIとの共同研究を探る企業や大学関係者らの熱気に包まれ、岸田文雄首相から初代理事長予定者に任命された山崎光悦氏(前金沢大学学長)の運営方針に聞き入った。
実は私の会社は、特にこれからの10年、F―REIと共に歩みを進めることになる。今年6月、総額30億円を掛けて、研究開発と製造の機能を一体化した次世代中核施設「福島RDMセンター」を浪江町に開業するからだ。F―REIの建設予定地から車でわずか10分。イノベーションコースト構想を基に、すでにグリーン水素のパイロットプラントやドローン開発のテストフィールドなどの立地が先行して進んでいたことが浪江に決めた理由だが、まさかF―REIとお隣同士になるとは予想もしていなかっただけに、うれしすぎる誤算となった。
F―REIの実現に心血を注いだのが安倍内閣で復興相を務めた地元選出の吉野正芳先生。そして浪江町への進出を模索していた当社に吉野先生をご紹介してくれたのが、岩倉博文苫小牧市長である。お二人は2000年の衆院選で初当選を果たした同期のサクラ。しかも両家は同じ木材を祖業とし、先代から既知の関係にあったという。
苫小牧と福島を結ぶ不思議なご縁に、当社も生かされている。イノベーションは人と人の出会いからしか生まれない。年の初めにあたり、福島再生への想(おも)いを新たにしている。(會澤高圧コンクリート社長)
あいざわ・よしひろ 1965年静内(現新ひだか)町生まれ。中央大学卒業後、日本経済新聞社入社。ニューヨーク特派員などを歴任、98年に會澤高圧コンクリート入社。2008年社長に就任。近著に「老舗イノベーション」(幻冬舎)。