あーあったまる

あーあったまる

 3月半ばの旭川は想像よりずっと寒く、なぜわたしは春の軽装で来たのだろうか。気温すら確かめない自分にあきれるのを通り越して感動した。「暖かくなりましたよ」タクシーの運転手さんは言った。「え、これで?」「昨日までは氷点下でしたから。今日は風があるから冷たいですけどね」「はあ」「風がなければ春の陽気ですよ」

   これが旭川の春の陽気なのか。空港から旭川の中心に向かうタクシーの中から見る景色は、真っ白に積もった雪が続いていて向こう側には山々が見えた。「お客さん、あれはね大雪山ですよ」「あれが!調べました!」「温泉もありましてね」「旭岳温泉ですね!」食い気味に答えるわたし。気温以外の予習は万全だ。窓を開け、暖かいタクシーの中から感じる澄んだ空気は心地よく、ラジオのように聴こえてくる運転手さんの旭川談義も心地よい。

   ウトウトし始めた頃、ホテルに到着。チェックインを済ませ、運転手さんに教えてもらったホテル近くの塩ラーメンの名店に向かった。100メートルも離れていないが、慣れない雪道で滑りそうになる。なぜ、春らしい革靴で来たのだ。できるだけ解けている所、だが、水たまりになっていない所を探し、ジグザグと緊張しながら歩き、お店の前で、ふうとため息をつくと白い息が広がる。

   カウンターに座ると、お昼時は過ぎていたが混んでいた。海外の人も多そうだ。人気の塩ラーメン野菜乗せ。早く熱々のラーメンで温まりたい。入り口近くに座ってしまったからか、ドアが開くたびに冷気が体にしみる。都会の寒さとはパンチが違う。春コートも脱いでしまって、薄手のカットソー一枚のわたしである。

   「お待たせしました!」元気で明るいお兄ちゃんがカウンターに置いてくれた塩ラーメンを、かじかんだ手で受け取ると、ずしりと重い。おお、すごい。驚くことにメニューの写真よりも立派なものが出てきた。野菜が麺を覆い尽くしている。玉ねぎ、白菜が四角く切ってある。これはなかなか東京では見ない切り方。

   れんげでスープを一口。あーあったまる! 喉に、胃に、温かいスープがスーっと入っていく。うわぁ~あったかい~助かった~。ラーメンを食べた時の感想ではないな、と自分で笑ってしまい、身体が落ち着いたところで冷静に向き合った塩ラーメン。うわ、これ、おいしい、とつぶやき完食。旭川1日目。(続く)

  (タレント)