柔らかな触り心地で、認知症の人の気持ちを落ち着かせる効果があるとされる円筒状のニット「認知症マフ」。苫小牧市内のデイサービスに通う高齢者や手芸が得意な住民に手作りの輪が広がっている。心を込めて作られたマフは苫小牧東病院(明野新町)と苫小牧王子総合病院(若草町)に贈られ、入院中の認知症患者のケアに活用されている。
認知症マフは、毛糸で編んだ筒状の防寒具に短いひもやボール状のアクセサリーを縫い付けたもので、指先から肘の手前ぐらいまでの長さが一般的。手が包まれたり、アクセサリーを握ったりする感覚刺激によって、認知症に起因する緊張感や不安感を和らげる効果があるとされている。
苫小牧東病院は昨年2月ごろ、看護師が勤務時間外に手作りしたマフの使用を開始。点滴の管を抜いてしまう患者の腕にはめたり、不安や緊張が強い人の腕を包んだり、アクセサリーに触れてもらったりしたところ、引き抜く行為や攻撃的な言動が減る効果が表れたという。
関わった看護師の約8割が「導入してよかった」と実感し、より多くのマフを確保したいと高齢者の社会活動を推進する市内の一般社団法人STADT(シュタット)に協力を依頼。同法人の働き掛けで、デイサービスこぶし(本幸町)を利用する高齢者が昨年秋ごろから、作業プログラムの一環としてマフ作りを手掛けている。
材料は市民などから提供されたもので、アクセサリーの部品作りを手伝いたいと申し出る地域住民もいるという。同施設は、これまでに約40個を同院に寄贈。シュタット代表理事の田中亮太さんは「マフを軸にして、市民、作り手の高齢者、それを使う認知症患者がつながり合う地域連携の輪が生まれている」と話す。
今年5月には、双葉町の住民などでつくるボランティア組織「双葉だけボラの会」も製作に協力。手芸が得意な会員12人が毛糸の編みぐるみや、果物の飾りをあしらった色とりどりのマフを20個作り上げた。生田千代子さん(76)は「必要とされるなら、今後も作り続けたい」と意欲的だ。
マフは東病院のほか、王子総合病院にも寄贈。同院の認知症看護認定看護師の桂川厚子さんは「手の込んだものを作っていただき、本当にありがたい。患者さんにも選んでもらう楽しみができた」と喜ぶ。
東病院の同看護師の安宅麻生さんも「両団体に加え、取り組みを知った住民が手作りして届けてくれることもある。マフに込められた温かい気持ちが、使う人の気持ちを安らげてくれるのかもしれない」と話している。