北米で縄文と出会う

北米で縄文と出会う

 大陸の方から「〇国4000年の歴史」といった言葉が飛び出すとき、私は決まって「わが日本文明はひと桁上の1万6500年ですから~」と反撃するようにしている。津軽の大平山元遺跡から出土した土器は、土器片とすら呼べないほど痛々しく砕けていたが、炭素年代測定法で恐らく世界で最も古いとされ、2021年7月、北海道・北東北の縄文遺跡群が世界遺産に登録される原動力となった。

   価値は計り知れない。世界が横穴の洞窟に身を隠して生肉を食らっていた頃、私たちの祖先は水辺の平らな土地に集落をつくり、人工の器をもって煮炊きをし、栗や魚貝がたっぷり入ったブイヤベースを食していたという証しだ。

   東から昇る太陽への畏敬からユーラシアの東端に当たる列島へと人々が移り住み、類いまれな自然の恵みに抱かれて、争うことのない時代が1万年以上も続いた。おかげで私たちニッポン人には、ひとは自然に生かされていると感じる高い精神性が備わった。縄文人のY染色体は戦乱による断絶を免れ、今に引き継がれていることも最新の核DNA解析で明らかだ。

   「ニッポン=世界最古」にこだわっている私の心を、揺さぶる出来事があった。先月のボストン出張からの帰り道、プリマスという小さな港町に寄ったときのことだ。言わずと知れた清教徒ピルグリム・ファーザーズがメイフラワー号に乗り、アメリカ大陸に第一歩を記した聖地。町が歴史公園として整備され、いわば合衆国の建国神話の起点となっている。

   上陸した102人の清教徒たちはパタクセットという先住民の去った集落跡に居抜きで移り住み、抵抗を受けずに最初の植民地を築いたことを初めて知った。ヨーロッパ由来の疫病がすでにまん延し、この地のアメリカ先住民の9割が死に絶えていたからだという。

   衝撃だったのは、学芸員らしき初老の女性の解説。「ここでは先住民たちの生活が少なくとも1万6000年続き~~」 え!っと、思わずうなった。どこかで聞いた数字。そうだった。アメリカの先住民は列島の縄文人がさらに東を目指し、ベーリング海を超えてアメリカ大陸へと渡った私たちの遠い祖先の分かれなのだ。

   パタクセットには、縄文の住居にそっくりなかやぶきの集落が再現され、いろりの優しい暖気が中に満ちていた。その居住区に向かって橋頭堡(きょうとうほ)を築くように、鋭いギザギザの高い塀を回した清教徒たちの植民住居がシンメトリックにズラリと並ぶ。開かれた「平和」と、閉じた「威嚇」。コントラストが悲しくなるほどに鮮やかだった。

   あとは見ての通りだ。江戸に天下無双の天守閣がそびえた頃、バラック小屋だった小さな教団の植民地は、本国イギリスの国教会を振り切って独立を果たす。先住民をせん滅しながら西海岸に到達したのもつかの間。今度は太平洋を飛び越え、美しき縄文の国に2発の原爆を落とした。プリマスの上陸から、わずか325年後のことだ。

   公開中の米映画「シビル・ウォー」を見てほしい。正義と不寛容、銃声と差別に心が折れる。歴史は繰り返さないが、韻を踏む。大統領選後の覇権国アメリカの分断と衰退はどうやら避けられそうにない。来年は戦後80年。そろそろニッポンを取り戻しても罰はあたるまい。

  (會澤高圧コンクリート社長)