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「妻は認知症です」店に張り紙 温かく見守る地域、客

2013/7/26配信

 苫小牧市で洋菓子店「ケーキのヨコヤマ」を営む横山重雄さん(65)は、妻の洋子さん(64)が認知症であることを来店客に張り紙で知らせている。開店40年、ずっと夫婦二人三脚で歩んできた。これまでの習慣をできる限り維持し、病気の進行を遅らせたいと願う夫の「告白」。店の客や地域に大きな共感を呼び、支え、認知症理解の輪が広がっている。

 「家内が認知症を患っており、お客様に大変ご迷惑をお掛けしております」

 色とりどりのケーキが並ぶショーケースの上に、張り紙が置かれたのは2011年。洋子さんはその2年前、認知症と診断された。だが、「病気が進行しにくくなる」という医者の助言を信じ、重雄さんはそれまでと変わらず洋子さんに店番を任せた。それでも、症状は日を追うごとに進行した。常連客の顔、評判だった気立ての良い接客、お金の数え方―など、当たり前にこなしていたことがほとんどできなくなった。

 店には「態度が悪い」など洋子さんに関する苦情が毎日のように寄せられ、売り上げは激減。店を畳もうと何度も考えた。だが、ケーキ職人一筋でやってきた重雄さんに別の道へ進む決心は付かず、店を続けるには、洋子さんの病を来店客に打ち明けるしかないと腹をくくった。

 「(認知症を)隠さず出していくべ。何かあったら、俺たちが助ける」。近所でスポーツ用品店を経営し、横山さん夫婦と家族ぐるみの付き合いを続けてきた大捕良一さん(69)は、重雄さんにそう働き掛けて、自らパソコンで洋子さんの病気を知らせる張り紙を作った。地元の北中央通商店会も市に依頼して会員向けの認知症サポーター養成講座を企画。病気の理解に努めた。

 会長の日高浩一さん(49)は「普通は(認知症を)隠したいと思うはず。横山さんが勇気を出したことで、地域のみんなが〝何かできることはないか〟という雰囲気になった」と話す。

 反響は予想以上だった。認知症の家族を介護しているという客は張り紙を目にし、「元気をもらった」と涙を流してケーキを買い求めた。洋子さんが店番の時は、支払いの際におつりが出ないよう気を配ってくれる客もいた。店の売り上げも、以前と変わらないほどにまで回復。夫婦共通の趣味のゴルフにまた出掛けるようになり、洋子さんは笑顔を見せることが多くなった。大捕さんらは、仕事と介護でストレスのたまる重雄さんを呼び、酒を酌み交わしながら愚痴を聞く機会を何度もつくった。

 「認知症を告白したことで、気が楽になった。地域の支えが無かったら、今の自分は想像できない」と重雄さんは笑顔で語る。

 だが、この1年で症状は急速に進行。家を飛び出して徘徊(はいかい)したり、頼んでいない商品を買ってきたりと、重雄さんも目が離せなくなった。今月から洋子さんは、通所介護サービスを利用するようになったが、ケーキをショーケースに並べるなど簡単な作業は続けている。

 「妻はいつか、自分の記憶さえ失うかもしれない。だから夫婦の思い出は、妻の分も心にしっかり焼き付けよう」。重雄さはそう決めている。

 「あなたはケーキを作るだけでいい。あとは私が全部やるから」。40年前、2人が出会った洞爺村(現・洞爺湖町)から、縁もゆかりも無い苫小牧で独立すると決めた重雄さんに、洋子さんはそう語り掛けた。責任感が強く、てきぱきと働く妻。忙しい時には、2人で徹夜してケーキを作ったこともある。周囲からは「この店は奥さんで持っている」とまで言われた。

 「今までの恩返しじゃないけど、できるところまで彼女の望むような生き方をさせてあげたい」。周囲の人々の温かいまなざしに支えられながら、横山さん夫婦の歩みはこれからも続く。

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