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北海道胆振東部地震

「うちの米しかない」 苫小牧の地酒「美苫」原料米育てる厚真の佐藤泰夫さん

2018/10/4配信

 苫小牧の地酒「美苫(びせん)」の原料米を長年、育ててきた厚真町の農家佐藤泰夫さん(63)は3日、特別な思いで今年の稲刈りに臨んだ。胆振東部地震で震度7を記録した同町では土砂崩れにより多くの犠牲者が出て、佐藤さん自身も身内や仲間を失い、今も避難所生活を送る。生活環境は劇的に変わったが、自身の田んぼで、稲穂が黄金色に輝く光景を目にし、「無事だった米は無駄にはできない」と気持ちを奮い立たせた。

 「今年の酒造りには、うちの田んぼの米しか使えないんだ」

 3日、町内富里地区の田んぼで佐藤さんはとまこまい広域農業協同組合を通じて借りたコンバインに乗り込み、美苫に使う酒米「彗星(すいせい)」の稲を黙々と刈り取っていた。

 美苫は、苫小牧市の水と厚真町の酒米を小樽市の田中酒造に持ち込んで醸造し、仕上げる苫小牧の地酒。道中小企業家同友会苫小牧支部の酒店経営者を中心とした「美苫みのり会」が企画した。原料米の生産は、2000年から佐藤さんと町内幌内地区の山本辰幸さん(77)の2人に依頼してきた。

 天皇陛下への献上米も育てる「米作り名人」だった山本さんは今回の地震で亡くなり、田んぼにも土砂が流れ込んだ。今も山本さんの田んぼ周囲の山肌には土砂崩れの跡が残り、道路脇に土砂でつぶれた農機具が幾つも置かれている。

 佐藤さんの自宅も地震で傾き、数十メートル先で暮らしていたいとこの正芳さん(当時65)も土砂崩れで命を落とした。土砂は佐藤さんの倉庫も襲い、多くの農機具を駄目にしたが酒米を育てていた約1ヘクタールの田んぼは無事だった。厚幌ダム建設に伴う河川改修で自宅前の田んぼが使えず、今年は数百メートル離れた場所で田植えをしていたためだ。

 佐藤さんは家族と避難所で生活しながら、コンバインや稲を保管する乾燥機を動かす自家発電機を用意し、収穫準備を進めた。

 台風接近に伴う道路の交通規制もあり、予定が狂うハプニングもあったが「無事だった米は無駄にはできない。何としても刈り取る」と覚悟は揺るがなかった。

 収穫など一連の作業はこれから2~3日続くが、懸念は尽きない。田んぼに水を供給する用水路にまで土砂が流入し、復旧を見通せず、来年の米作りに不安を抱える。それでも佐藤さんは「何とか前を向いて進みたい」と力を込めた。

 美苫みのり会は、被災した厚真町に寄り添った支援を模索中で、美苫は12月中旬の出荷に向け調整を進める。同会の平田幸彦会長(65)は「5月に30人ほどで田植えした田んぼが残ってくれた。思いをつなげていきたい」と話した。

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