晴れた日の穏やかな支笏湖(千歳市)の水面が鏡のように風景を映し出す「鏡面現象」の観光資源化に向け、公立千歳科学技術大学情報システム工学科の曽我聡起教授の研究室が、同現象の発生を8割弱の精度で予測できるアプリを開発した。所属学生が、3年ほど前から卒論研究の一環でブラッシュアップを重ねてきた。湖畔の宿泊施設にアプリを搭載したタブレット端末を貸し出して顧客サービスに役立ててもらいながら、実用化の可能性を探る。
同研究室では2021年度から、所属学生が卒論の研究テーマなどに鏡面現象を取り上げ、後輩に引き継いでいる。
初年度は環境省の支笏湖に関する観測データを使って鏡面現象の発生状況を検証し、春先に起こりやすいことを確認。22年度は、湖畔の温泉宿泊施設「休暇村支笏湖」の敷地内に観測機器を設置し独自に気象データを集めた他、AI(人工知能)による機械学習用ソフトも活用し、鏡面現象の発生予測のアプリ開発に本格着手した。
直近の気象データをアプリに入力すると、発生確率が0~100%まで数値で表示される仕組みで、23年度は、発生予測に使う気温や風向きなどの気象データを再検証した。AIの学習ソフトにより30分置きの温度や風速の変化データも加えた結果、30分後の現象発生の予測精度は前年度の57・8%から77・8%まで高まった。
さらに地元観光関係者へのアンケートでニーズが高かった、翌日の発生予測にも挑戦。「翌日、少なくとも1回発生」という予測を7割の確率で的中させることに成功し、今春同大を卒業した山澤智哉さん(22)が予測精度向上をテーマに卒論にまとめた。
3月中旬、曽我教授と山澤さんが休暇村支笏湖を訪れ、アプリ搭載のタブレット端末を貸与。山澤さんは「研究は想像以上に楽しかった。鏡面現象の予測が、支笏湖の魅力を伝える手助けになれば」と期待を込めた。
休暇村の土居麻子支配人は「アプリを生かし、鏡面現象をテーマにした体験プログラムを作れそう。地元の学生が開発したというのも素晴らしい」と活用に前向きだ。
曽我教授は「過去の気象データを用いて予測するアプリの性質上、温暖化などで気象条件が変われば、予測精度が落ちる可能性もある」と指摘。「観光の視点に加え、環境問題について考える機会にもなれば」と話す。
鏡面現象…晴れた日に静かな湖面が鏡のように山々や青空、雲を上下対称に映し出す現象。地元では「鏡」と呼ばれる。幾つかの気象条件が重ならなければならず、千歳科学技術大学の研究によると4~6月に発生しやすい。