企画・特集

地域資源に懸ける―北の夢白書―

(3)千歳・支笏湖 ヒメマスで地域振興

(2009年 5/27)

稚魚が泳ぐ養魚池を前に白石事務局長

 食べた人が、「格別」と口をそろえる支笏湖のヒメマス。1894年、増殖事業で阿寒湖から移植されて以降、自然の一部としてはぐくまれてきた資源だ。かつては「湖の色が変わるほど」たくさんいた。1970年代以降、過剰な釣獲や病気で数が激減したものの、近年は地道な増殖事業が実を結び始めている。ヒメマスを多くの人に知ってもらい、支笏湖の名や価値を高める取り組みも広がりつつある。

 2007年11月に設立された支笏湖漁業協同組合。1998年に水産庁から千歳市へ移管された増殖事業を、2008年に引き継いだ。道立水産孵(ふ)化場などの指導を受け、10月に親魚を捕獲、人工授精させた体長4―5センチの稚魚を翌年6月に放流している。

 支笏湖は極貧栄養湖で、プランクトンを餌とするヒメマスを増やし過ぎることはできないが、昨年は17万匹の稚魚を放流した。今年は1万匹増やして放す考えだ。

 バトンタッチしながらも、これまで引き継がれてきた増殖事業で、資源量は徐々に回復。組合の白石一人事務局長は「事業は順調に進んでいるのでは」と手応えを感じている。

 ヒメマスをめぐり、温泉街にも変化が表れている。1970年代以降は安定的に供給できず、積極的にPRできない状態が続いていた。しかし、資源の回復傾向を受けて湖畔の老舗、丸駒温泉旅館は五年ほど前から、「天然ヒメマス付き」とうたった宿泊プランを始めた。

 旅館内のレストランでも、利用客に提供。養殖ものなどと比較すると、支笏湖産の値段は2倍近くするが、注文は確実に伸びている。

 自身も支笏湖のヒメマスを食べて育ったという佐々木義朗総支配人は「良い水がはぐくんだ味は格別。湖に来たなら、少しでもいいから口に入れてほしい。トロとウニを混ぜたような素晴らしい味がするんです」と顔をほころばせた。

 支笏湖のヒメマスを広く知ってもらおうと、市民に提供する取り組みも始まっている。昨年、千歳市役所駐車場を会場にしたスカイ・ビア&YOSAKOIまつり(同実行委主催)で、従来の養殖ものに代わり、支笏湖ヒメマスの塩焼きを販売し、人気を集めた。

 組合でも採卵後の親魚の活用を、昨年から開始。親魚を使ったまんじゅう「秋ひめまん」を冬の千歳・支笏湖氷濤まつりで売り、客の評判も上々だった。

 千歳観光連盟でも、パンフレットやホームページで情報発信に力を注ぐ。地元出身で連盟の佐々木智秀観光事業課長は「千歳市民や周辺の人々にも身近に味わってもらいたい。地域の大切な資源を発信していかなければ」と意欲を見せた。

 資源は回復しつつあるが、イベントなどでの提供は、通年とはいかない。「だからといって、網で大量に取ろうとは決して考えていない」と白石事務局長は力を込める。需要があるからと、釣り過ぎれば、また資源が減ってしまう。

 青い湖がはぐくむヒメマスにもっと親しんでもらいたい。「格別」とため息が出るほどの味をたくさんの人に知ってもらいたい―。「どうしても、後世に残したい魚なんです」と白石事務局長は言った。

 組合の施設で、広い湖に放たれるのを待つように元気いっぱいに泳ぐ稚魚。自慢の水産資源の再生を願う人の思いを一身に受け、今年も6月下旬から18万匹の稚魚が放流される。